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第14話 宴会の席で

 そこは宴会の席だった。


 外に聞こえるほどのどんちゃん騒ぎが、ユノがノックをすると水を打ったかのようにしんと静まり返る。


「入るがいい」


 深い、そして威厳のある声が中から聞こえる。


「失礼します」


 ユノは低姿勢にそう言うと、ゆっくりドアを開いた。

 とたん、むわっと酒の匂いが漂って来る。


 そこまで広くもない規模の食堂のようで、そこかしこに料理の皿と木製のジョッキが並んでいる。

 それを飲み食いしているのは、それなりにがっちりした男たち数十人。

 20台の若者もいれば、50過ぎだろう腹の出っ張ったおじさんもいる。


 ただ共通したものとして、彼らの双眸そうぼうに宿る不審と敵意が、こちらに降りかかってくるのだから、それはもう気後れしてしまう。


「こちらへどうぞ」


 ユノがそう言って先に歩き出す。

 俺とアモスはその後に続く。


 ぴょん吉は何を思ったか、


『ちょっと村を見て回ってくる』


 とか言ってどこかへ行ってしまった。


 また逃げたな。


 とはいえあいつがいてもどうにもならないので、好きにさせることにした。


「連れてまいりました、村長様。こちらが私の仕事を手伝ってくれた、リオさんとアモスさんです」


 ユノが丁寧――というよりは、恐縮しきっている様子で俺たちを村長に紹介する。


 村長は、ある意味想像した通りおじいさんだった。

 だが予想外だったのは、ピンと伸びた背筋と、こちらを値踏みするような鋭い目つき。


 明らかにめんどくさいタイプの老人だ。


「それで? 何が目的だ?」


 開口一番、そんなことを聞かれて戸惑ってしまう。


 目的も何も……ただクエストとして彼女を手伝っただけだし。


「彼女が困っていたので、ちょっと手を貸しただけです」


 だからそのまま言うしかない。

 それに対する村長の反応はこれだ。


「ふはっ、ここから町まで5時間はかかる。それが“ちょっと”かね」


 この返答で、俺はこの爺さんが嫌いになった。


 明らかな揚げ足取りだが、それ以上に“ちょっと”でもないことをユノに強要していたのだから。


「そのようなことをユノは頼んだかね? わしはユノに言ったぞ。必ず1人でやるように、と」


「明らかに人1人で運べる量じゃないでしょう。それを女の子にやらせるなんて。手伝って何が悪いんです?」


 理不尽極まりない村長のやり方に、反発心が起きて言葉遣いも少し荒くなる。


 だってそうだろう?

 あんな荷物をユノ1人で運ぶなんて、圧倒的に理不尽すぎる。

 この屈強な男たちの何人かが手伝えば、もっと楽に、効率的に仕事が終わるはずだ。


 それにも関わらず、ユノ1人に任せ、自分たちは定められた仕事が終わるとこうして酒盛りをしているのだから。


 不平等だ。

 不公平だ。

 理不尽だ。


 それを思うと、怒りと反骨精神が体中に満ちてくる。


 その怒りを村長は笑殺した。


「それは女が男に劣ると言いたいのかな? わしはユノならできると思って任せた仕事だ」


「できるできないは問題じゃないでしょう。あれだけの辛い肉体労働をなんでユノ1人に押し付けるのかってことです」


「論点のすり替えだな。わしは何が目的だと聞いたのに、お前はわしらを非難するだけ。まともな受け答えではない」


「先にすり替えたのはそちらでしょうが!」


「そのような無礼な口をきく若造に、まともに答える必要があるかね?」


 ぐっ、これだ。

 こういう人は、年齢だ立場だを盾に自分の都合を押し付けてくる。


 それでもと反論しても、一度決めたら聞く耳を持たない。


 おそらくユノもそうだろう。

 あれだけの運搬は1人でできるわけがない。できても時間もかかるし、非効率的。


 だがそれを言い募っても、この村長は決めたことだから曲げない。

 そしてできないことを相手の無能だとあげつらい、少しでも感情的になればこちらに非があると押し付ける。


 これがただの孤独な老人ならまだいい。

 だが村長という、村の人々を指導すべき人間がそうなら。

 それはもう、不幸でしかない。


「リオくん。ちょっと落ち着こう。彼らは何もボクらと敵対したいわけじゃない」


 アモスが見かねて仲介に入ってきた。

 見ればユノが、傍目からでも分かるほど狼狽していた。


 その様子を見て、少し俺の中にあった熱が冷めた。

 そうだ。これ以上は彼女にも迷惑がかかる。


「すみませんでした」


 だから先に謝った。

 会釈ともとれるくらいに頭を下げて、屈したとは思われたくなかったから。


「ふん、いまさら何を。で、そちらは?」


「よく聞いてくださった。我こそは天地に2つとない英知の持ち主にして、未来の最強の魔法使いナンバーズ1になるアモス・カンディア。ぜひ覚えて帰っていただきたい」


 アモスが意気揚々と自分アゲの自己紹介を始める。


 もはやツッコむ元気もない。

 これはこれで面白いのでは、と思ってしまうところもある。


「ふむ、アモス。とんと聞かん名だ」


「それは当然でしょう。このボクが活躍するのは未来の話。けどそう遠くはない。ゆえに、今のうちに懇意にすべき人間ということ! 青田買いというやつですよ」


 どういう思考回路をすれば、こんな言葉が出てくるのだろうか。

 ある意味羨ましい限りだ。


「まぁいい。で? そのアモス殿は何をしに来た?」


 村長の問い。

 俺と同じ問いをアモスにもした。


 そこで少し疑問を感じた。

 なんでそこまでこの村に来た理由を聞くんだろう、と。


 ……まぁ、こういう村って排他的な感じなのかもな。

 元の世界の地方の村も、新しく来た人間とかには結構冷淡だって話も聞くし。


「よくぞ聞いてくれた、ご老人! このボクは、諸国を旅し見聞を広めつつ研鑽を積んでいるのさ。都の方からは魔王討伐軍に是非入ってくれという連絡は来ているのだが、こういった地方こそボクの力が必要と思っているのだよ。近頃はモンスターだけではなく、盗賊も横行していると聞く。地方の安定こそ、中央の安定。それゆえにボクは数少ないお供ともに、こうして地方を回っているのさ!」


 よくもまぁ、こんなありもしない嘘を次から次へと。

 実際はまだ都に行ったこともないし、自分の名前を売るのに必死だし、手伝いもしぶしぶだったわけだが。


 つか、俺か?

 その数少ないお供ってのは?


「ほぅ、アモス殿は都から来たのか?」


 村長の声が少しトーンを落としたように聞こえる。


 周囲の屈強な男たちも、どこかこれまで以上に険しい表情になった気がする。


「ああ、もちろんだ! このボクほど都が似合う人間もそういないだろう! 都では毎晩替えてもさばき切れないほどの求愛もあったし、ボクの旅立ちの時には1千人もの女性たちが涙で見送ったものだ」


 その中で、そんなことも気づいていないのか、あるいは完全に自分に酔っているのか。

 アモスは朗々と語る。


「なるほど、分かりました。それではアモス殿。それから、そちらの方。今日はもう疲れたでしょう。宿と食事を用意しますのでお休みください。明日、その都の話でも聞かせていただければ」


 不意に、村長の物言いがかなり柔らかくなった。

 先ほどまでの居丈高な言い様からすれば、気持ち悪いほどの手のひら返し。


 俺はアモスに注意しようと口を開きかけたが、


「うん、そうさせてもらおう」


 アモスの承諾の方が早かった。

 こいつ、絶対自分の都エピソードが心を打ったとか勘違いしてそうだな。


「ユノ。彼らを裏の建物に案内してあげなさい。それから食事を運ぶこと」


「え……あの……裏のって……」


「いいから、早くしなさい」


「は……はい」


 村長に強く命じられ、少し悲し気な表情を浮かべたユノは、俺たちに向き直る。


「あの……それでは、案内します。こちらへどうぞ」


「うん、案内されよう!」


 アモスは相変わらず自分に酔ってる。


 けど、俺はなんとも落ち着かない感じだ。

 こんな時にぴょん吉がいないのが痛い。


 あいつがこの村が変だと言っていたのは、やはり何かあるのか。


 とはいえ、俺ももう疲れたし、空腹で頭が働かない。


 村人たちの敵意にも似た視線を受けながらも、明日のことは明日考えようとして、ユノたちの後をついていく。


 それが、圧倒的な間違いであることを知らずに。

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