第13話 到着
「ふへぇ……やっとついた……」
人家の灯りを見つけ、情けない声を出してしまった。
街を出たのが15時過ぎ。
そしてユノの暮らす村――フィアト村が見えてきたときには、すでに19時を回っていた。
太陽はすでに落ち、辺りは電灯なんてないから真っ暗だ。
だからこそ、人家の灯りが見えた時には心底ホッとしたし、疲労困憊の体にも最後の活力が戻ったわけで。
「つきましたね、さぁもう少しですよ、行きましょう」
ユノは、まだまだ元気そうで木製のリアカーを引っ張っていく。
街で廃棄予定のものをユノが借りて使っているらしく、ボロボロだけど実用にはなんとか耐えた。
「なんでそんな元気なんだ……」
と、肩で息をして今にもぶっ倒れそうなのはアモスだ。
俺も疲労と空腹と喉の渇きで、頷くしかできない。
荷物は、アモスが定期的に魔法をかけたおかげで、それほど重くはなかったけど、4時間近く歩いたのでもうヘロヘロだ。
とはいえ、なんのトラブルもなくたどり着けたのは僥倖というべきなのだろう。
「おい、ぴょん吉。ついたぞ」
俺はリアカーに積まれた箱の上で寝転がっているぴょん吉に声をかける。
反応がないと思ったら完全に寝ていた。
人が働いているってのに呑気な。
とはいえ、もはや怒る気も失せていたので放置。
元気なユノに励まされながら、なんとか村の入り口にたどり着くと、俺とアモスは揃って地面にへたり込む。
もう一歩も動けねぇ。
「あの、本当にありがとうございました。本当ならもうちょっと遅くなって大変だったんですけど。それじゃあ、ちょっとこれを先にしまって、村長さんに話を通していきます。お礼をしますからちょっと待っててくださいね」
気にせず、と言いたかったけど、正直、食べ物とお風呂、寝床とかを請求したいくらいに疲れ切っていたから、一人でリアカーを引いていくユノを黙って見送った。
「んあ? おお、ついたのか。ってもう夜だな」
荷台から降ろされ、ようやく目を覚ましたぴょん吉は、そんな呑気なことを言う。
やれやれだ。
「おい、あの女はどうした?」
「彼女なら荷物を運んで行ったよ。それから村長さんに話をしてくるって」
「ふぅん。本当かね」
「おい、なんでそんなこと言うんだよ」
「ああ。彼女は良い子だ」
アモスも同調する。
というのも、道中にすることもないので、それぞれの身の上を話し合った。
アモスは立身のために出てきたこと。
俺は、これまでのことをオブラートに包みつつ、オリハルコンを必要にしていること。
そして彼女。
ユノの話は、ある意味お気楽ともとれる俺たちの話とは正反対だった。
『私、ちっちゃいころに村がモンスターに襲われたんです。お母さんは私を連れて逃げて……お父さんは、モンスターと戦って帰ってきませんでした。それから住処を転々として、最後にこの村にたどり着いたんです。けどお母さんは私を育てるために無理して。2年前に亡くなりました。それから、一生懸命、村のために働いてたんですけど……あまりうまく行きませんね。あ、でも今は幸せですよ? 働いていることが、みんなのためにはなっているんですから』
なんかもう、自分が恥ずかしい。
そんな境遇にありながらも、笑顔で文句ひとつ言わずに働いているのだから。
しかも聞けば俺より年下の14歳とのこと。
元の世界でのほほんと暮らしていた俺とは大違い。
歳は下だけど、彼女の方がもう大人な感じだ。
アモスも感じ入ったようで、涙を流していた。
「へっ、男2人が骨抜きにされてだせーだせー」
「なんだ、ぴょん吉。嫉妬か?」
「はぁ!? 俺様が? 誰に嫉妬するって? ありえねぇわ。お前、ちょっとそこに寝転がれ。その腐った頭を蹴り飛ばしてやる」
と言いつつ、本当に脛を蹴ってくるぴょん吉。痛かった。
「つかよぉ、どうもこの村はうさんくせー。嫌なにおいがビンビンするぜ」
鼻をぴくぴくさせながら、ぴょん吉はそんなことを言い始めた。
「嫌なにおい?」
「ああ。人のくさった欲望とエゴイズムが混じったようなにおいだ」
どんなにおいだよ。
「何か言っているのかい?」
ぴょん吉の声が聞こえないアモスが、俺の様子に気づいて聞いてくる。
リアカーに背中を預けて腰を降ろしたアモスは、小さな樽型の水筒を口につけている。
この世界、当然ペットボトルとかステンレス製の水筒なんてないわけで。
こういった木製のもので持ち運びするしかないので、利便性も保存性もかなり悪い。
一度戻れたらどっちかはちゃんと持ってこようと心に誓った次第だ。
「あぁ、なんか変な感じがするんだと」
「変な?」
アモスはいぶかし気な視線をぴょん吉に向け首をかしげる。
そりゃそうだろうな。俺も同感だ。
「とはいえ、もう暗いしここに宿を求めるしかないんじゃないか。さすがに今から先の町に戻ると深夜になってしまうし」
「賛成。さっさとお風呂入って疲れを取りたい。てか腹減ったし、眠いわ」
さすがにこれだけ歩けば足が棒になった感じだ。
帰宅部がよくやったと褒めてほしい。
「ふん、だらしねー連中だ。俺様はまだピンピンしてるぜ」
「そりゃお前は寝てたからだろ」
「ぐっ……そりゃお前。全員が疲労困憊だと万が一の時が大変だろ」
「今のお前が戦力になるのかよ。もうラビットキックには慣れたぞ」
「う、うるせっ! お前みたいなトーシロには分からない、高度な戦略なんだよ!」
「はいはい」
ぴょん吉の苦しすぎる言い訳に、相手にするのも疲れるばかり。
と、そんな俺たちを見てアモスが笑っているのを見た。
「いや、使い魔は何を言ってるか分からないけど、いい関係みたいだね」
「これが?」
「はっ、こっちもトーシロか。俺様がこんなクソ雑魚ナメクジと同等なんて。おい、反省しろ!」
「言っとくけど、それ、アモスに通じてないからな?」
「あぁ? てめぇ。まさか通じないのをいいことに、好き勝手言ってんじゃないだろうな!」
「するかよ、めんどくさい」
「はっは! やっぱりいいな。うん。こうなったらボクもさっさと都に行って、使い魔を探すことにしよう」
本当にいいのかよ。
絶対後悔するぞ。
とはいえ、もうそれを忠告するのも疲れた。
「つか、まだか……いい加減、腹減った。眠い……」
俺もアモスの横、リアカーに背をもたれて座り込む。
空は墨を塗りたくったように真っ黒。
その中にダイヤをまぶしたように、星々がキラキラと光っている。
あぁ、こんな風に星空を見上げるのはどれくらいだろうか。
基本、夜は外に出ないからね。まぁ見ないわな。
それにしても、この数日ですっかり俺の運命は変わってしまった。
果たして家に帰れることはあるのだろうか……。
いや、そもそもこの危険でしかない世界で生きられるのか……それに、イトナも……彼女を……どう………………………
「すみません、おまたせしまして!」
ユノがやって来た。
その言葉にハッとして意識が戻ったのをみれば、どうやら軽く寝てたみたいだ。
あぶねっ。
よだれとか垂れてないよな。
「待たせ過ぎだ! なにやってやがった! てめぇ!」
ぴょん吉が元気にユノの周りをピョンピョンと跳ね回るが、もちろん言葉は俺にしか聞こえていない。
だからユノはぴょん吉の行動に首をかしげるしかない。
もちろん俺としては彼女を責めるなんてことはしない。
嫌われたくないしね!
「いや、ゆっくり休めたよ。それで、どうだった?」
「あ、はい。なんでも村長さんが会いたい、と」
「え?」
正直、寝床と食事をもらえるだけで十分だったのだけど、まさか代表の村長さんが会いたいと言って来るとは思わなかった。
あまり気は進まなかったけど、村の権力者に逆らってここにいられなくなったら、なによりユノがそれで責められたりしたらそれは困る。
だから、俺たちは相談の上、ユノに案内されて村長さんのいる場所へと向かった。




