第8話 魔法勝負見学
街の中心部らしい広場。
そこは建物がなく、代わりに中央に大きな噴水があり、その中央に鐘が置かれている。
そこを中心に、すぐには数えきれないほどの人が輪になって取り囲んでいた。
俺はぴょん吉の誘導に従い、人の波をかき分けて前の方に行く。
そこは闘技場になっていた。
人の壁でおおわれたコロッセウム。
観客が熱気に踊らされるのも似ている。
「おおお! また勝った!」「すげぇ、10人抜きだ!」「やだ、あの人。ちょっと格好いいかも」
そんな声を受けるのは、人の輪の中央にいる1人の青年。
歳は俺より上で、20代前半から中盤ほど。
背も高く、確かに男の俺から見てもちょっとイケメンと思ってしまう甘いマスク。
魔法使いというからでかいローブを羽織って鈍重そうなイメージだけど、この男は動きやすそうな布製の服に手足を覆うプレートに白マントという、勇者レベル10みたいな感じだった。
その男は青い髪をかき上げて、きざったらしい様子で声を張り上げる。
「さぁ、次の挑戦者はいるかな!? 帝都からやってきた大魔法使い、このアモス・カンディアにファストリードで勝てたら、賞金10万セロだ!」
キラリと歯が光りそうなほどのさわやかな笑み。
気に入らねー。どれだけ自信過剰なのか。
いや、そんなことより10万。上がってる。
10人抜きとか言ってたからそのせいか。
「ふーん、悪くないな」
俺の肩でぴょん吉が興味深そうにうなずく。
「どうした?」
「あの男、レベル23で魔力もそれなりにでかい。魔法使いの腕試しを名乗るだけある」
「ふーん、23ねぇ……俺の7倍か」
ほんと残酷だよなぁ……。
もうちょっとレベル上げやすくしてもいいんじゃね?
てかスタートダッシュとかあるなら、レベルカンストさせるアイテムくれよ。
「ま、てめぇには期待してねーが」
「うるせ。てかファストリードってなんだ?」
「ファストリード。要は高速詠唱だな。魔法には詠唱が必要になるが、それがどれだけ短いか。それが魔法使いの戦いには必要なんだよ」
「あぁ、なるほど」
よくある詠唱時間ってやつだ。
それがある分、魔法使いは打たれ弱いが発動すればそれはもう大火力って寸法。
強力な魔法ほど詠唱時間が長いのは、それでバランスとってるんだろうけど。
ただ、威力じゃなく速度で勝負と言われてもピンとこなかった。
周囲がざわつく。
どうやら新たな挑戦者が出たようだ。
「せっかくだ、おがませてもらおうか」
ぴょん吉が不敵に笑う。
「それでは、もうご存じかもしれないがもう一度、このアモス・カンディアが説明しよう。まずはこの的をお互いの頭の上に乗せる。スタートと同時に詠唱をはじめ、この大魔法使いであるボクより先に魔法を発動しこの的に当てたら君の勝ちだ。もちろん的を外したりしたら負けだがね。ああ、このエリートたる俺だ、決して避けることはしないとも。そう、これは詠唱速度だけでなく緻密な正確性も求める、まさに都会風の決闘なのさ!」
自己主張うざいな……。
どんだけ自分アゲ好きなんだよ。
「ではスタートだ」
開始の合図とともに、挑戦者がぶつぶつと何かをつぶやき始める。
早い、のか分からない。
けどアモスはスタートを言った分、若干遅れている。
「うんうん、頑張りたまえ。ま、このボクにかかればここからでも逆転可能なんだが」
それ以上に、めっちゃ余裕そうだった。
「詠唱ってのは、自分の中にある魔力と自然にある魔力を合一させるための説明書みたいなもんだ。そして基本、魔法は5節からの詠唱で成り立っている。だから速度を速めるには早口で言うか――」
ぴょん吉の解説の間にも、挑戦者はひたすら詠唱する。
一節が終わったというのはなんとなく分かった。
そこで息をついたからだ。
「では、そろそろボクも行こうか。天空の雷神。駆けぬける風神。大なる地母神。我が呼びかけに答えよ」
と、アモスが動いた。
だがそんなに早口というわけではない。
挑戦者の2節と、アモスの1節が終わるのが同時。
「さぁ、こちらはあと2節だ。怖れよ恐れよ。天の裁き。風の怒り。地の嘆き。すべては我が力に帰するものなり」
それでも余裕満々のアモスに、ぴょん吉がうなずく。
「なるほど。やはりショートカットなのか」
「ショートカット?」
「魔法の詠唱には5節必要と言ったろ? けど突き詰めた魔法使いの中には、4節や3節に縮めて魔法を発動できるやつもいる。ま、大体がナルシストの部類になるわけなんだが。あの男もそうなんだろう」
ナルシストって……。
でも、なんとなく分かった。
普通5節必要という詠唱に対し、あと2節――つまり合計3節だというのだから。
これはもう普通に考えれば圧倒的にアモス有利だ。
つか舐めプだった。
「ほれほれ、あと1節だぞ? 頑張れがんばれ。我が名はアモス、雷鳴のごとくかの者を討つ閃光となり、天下にその名を轟かさん! リトゥン・サンドル!」
と、アモスが唱え終わり、右手の人差し指を挑戦者に向けると同時、閃光がきらめいた。
魔法が発動したのだ。
閃光は一直線に挑戦者の頭に向かっていく。
だが挑戦者は黙って負けを認めることはない。
「ちっ!」
「避けた!」
群衆がざわめく。
挑戦者が避けたということは、アモスの魔法はそのまま一直線に観客の方へ向かうわけで。
悲鳴が上がる。
だが――
「残念無念ってね!」
アモスが指を動かすと、閃光は動きを変えて、頭を大きくずらした挑戦者の頭に――正確には頭につけた的に直撃した。
「アモス・カンディアの完全勝利! 以上、ご観戦感謝する」
アモスの勝利宣言と同時、観客から拍手が巻き起こる。
俺も拍手をしていた。感動した。
あの自信過剰の言動と舐めプはいただけないが、圧倒的不利な状況でひっくり返す能力、さらに相手がどんな抵抗をしても仕留める実力。そしてそれらを裏打ちする絶え間ない努力。
それらを認めないわけにはいかない。
「いやいや、魔法を追尾させるとは。なかなかだ……が、やはり弱いな。あんなもの、俺だったらはじき返すね。いや、その前にあいつが口を開く前にぶん殴って終わらせる」
だがぴょん吉は冷めたもの。
てか元も子もないことを言う。
「そりゃ弱いだろ」
お前からしたらな?
「それに、あいつの本質も見えた」
「本質?」
「ああ。あいつはやっぱり強くはない。だからこんなことしてんだ」
「いや、強くないって……基準が変だろ」
「そういう意味じゃねーよ。考えてみろ? こんなお遊び、実戦で何の役に立つ? さっきのあのオオカミを思い出してみろよ。早く詠唱ができるからって、それで出た魔法があんなお粗末なものだったら」
お粗末……言い方はひどいが、確かにぴょん吉の言葉は的を射ている。
あのオオカミ。
あれに今の魔法が通じるとは思えない。
ましてや追尾できるとはいえ、あそこまで縦横無尽に高速で動かれたら当てられるわけもない。というか追尾される前に近づかれて食われる。
「そういうこと。つまりあいつは早い詠唱が武器だけど、それ以外はからきし。だからこそこんなお遊戯みたいなルールを作った。的に当てるっていう精密さ――つまり火力は必要ねぇんだ。そうだろ? 普通強い魔法使いってのはどんだけ強い魔法を使うか、どれだけ優秀なサポートをするかってのが肝だろ? さっきのあの女みてーによ」
「なるほど。だから強く“は”ないってことか」
ぴょん吉の発言に頷いてそこまで言った時。
俺は周囲の異変に気付いた。
いや、ひょっとしたら少し前からだったのかもしれない。
いつの間にか拍手は止んでいて、代わりに静寂が支配している。
それはつまり、俺の声がよく通るということ。
さらに言えば、先ほどから注目を浴びていたのは広場の中央にいるアモスとやら。
だが今は主役が変わっていた。
いや増えていた、というべきか。
片方はもちろんアモスに。
そしてもう片方は――
「ほぉぉぉぉう? この ボクが弱いと? 都会から出てきた大魔法使いであるこのボクが貧弱だと?」
アモスの視線がこちら――正確に逃れようないほどに俺をロックオンしていた。
もちろん観客も。
そして俺の周囲にいた観客は、巻きぞいを怖れてか3メートルの距離を置く。
「取得した魔法は100を超え、かの名門校ベリファーニャ学園の門をたたき、かの王国最高の魔法使いであるナンバーズの1人の弟子にして最高の称号を得た俺が!」
あぁ、またなんか始まった。
てか知らねーよ。どこだよ、その学校。誰だよ、その師匠。
「覚えたっつっても魔法なんて腐るほどあるから、弱いのばっか覚えたんじゃね? それに門をたたいたってことは入ったわけじゃないし卒業したわけじゃない。それに弟子っつっても自称弟子ってのは多いらしいぜ」
ぴょん吉が冷静にアモスの言葉を論破する。
これ以上油を注ぐなっての!
「そんなボクが、君のような珍妙な格好をした子供に弱い呼ばわりされる。そんなことがあっていいのだろうか、いやない! ゆえに、君に決闘を申し込む! ボクのプライドにかけて、君をぎったんぎったんにしてやろう!」
うわー、ぎったんぎったんって言葉、使うんだー。珍しー。
そんな現実逃避をしなくちゃいけないほど、俺の心は晴れ渡る空に反してどしゃ降りだった。




