第2話 初実戦
間に合え!
間に合え!
間に合え!
それだけを念じながら走る。
オオカミはすでに少女の前まで来て品定め中だ。
対する少女の方は、先ほどの咆哮に腰を抜かしたのかへたり込んでいる。
いや、うつむいて手を胸の前で組んで頭を下げた。
なんだそれは。
許しを請おうってのか。
いや、違う。
諦めたのだ。
逃げればあるいは助かるかもしれないのに。
歯向かえば万に一つ助かるかもしれないのに。
すべてを諦め、自分を差し出したのだ。
ふざけるな。
そんな簡単に諦めていいわけがない。
この理不尽に降参していいわけがない。
だから、より加速する。
その理不尽と戦うために。
ガァァァ!
オオカミが叫ぶ。
そのまま、大きな口を、少女に突き立てようと。
「ざ、けんな!」
さらに加速した。
もうあとのことは考えない。
少女を食らおうとするオオカミ。
そこを狙う。けど分からない。オオカミの弱点なんて知らないし、格闘技とかもやったことがない。
いや、いい。
そのままでいい。
ごちゃごちゃ考えるより、とにかく行動。
為せば成る。
そのまま突っ込んだ。
ギャウッ!
オオカミが悲鳴を上げて吹っ飛ぶ。
おお、あの巨体を跳ね飛ばした。
この『ドレッドノート』ってスキル。
最初は使えなさそうに思えたけど、なんとなくわかってきた。
今の俺には必要なものだと。
そもそもが、俺に戦いなんてことできるわけがない。
まずレベルとスペックが圧倒的に低いのだ。
それでモンスターとかに勝とうなんて、へそで茶を沸かす話だ。へそ茶案件だ。
だから自己強化。
最低限の戦えるパラメータになって、ようやくスタートラインに立てる。
だからこのスキルはほぼ必須スキル。
つか、だったらもっとコスト下げろよ。
ゲームバランスおかしいだろ。
ま、とりあえず今は今。
「逃げろ!」
叫んだ。
視線は吹っ飛んだオオカミに向けたまま。
後ろを振り向いたらやられる。それくらい分かる。
「え……」
「いいから! 早く逃げろ!」
「え、あ……はい」
少女の声。
テンパってるようでも恐慌しているようでもない。
落ち着いた、安心できる優しい声だ。
「あ……腰が」
「ちっ!」
けど、そうはうまくいかないか。
距離を取ってくれれば儲けものだったけど。
「あの、ごめんなさい」
少女が謝ってきた。
今の舌打ちが彼女への不満だと思われたのか。
そんなつもりで舌打ちしたわけじゃないんだ。
けど、今はそっちに構っていられなかった。
「いや、いい。それならそれでやりようはある。はずだ。多分」
いや、やる。
彼女を守ってあのオオカミを撃退する。
無理だとか思わない。
だって、
「為せば成る!」
オオカミがとびかかってくる。それより先に前に出た。
彼女が離れられない以上、こちらから距離をとってオオカミの脅威に対するしかないのだけど、それ以上に時間が問題だった。
スキル『メモリバインバイン』の効果時間はそれほど長くない。
女神が模擬戦とかで言ってた3分。
それが俺のカラータイマー。
もうすでに1分は経っている。
ここでもたもたしていたら、動けなくなった俺と彼女は仲良くオオカミの腹の中だ。
そんなの、許せない。
怖い、という感情はどこかへ置き捨てた。
だからオオカミの牙と爪をかいくぐって懐に入る。
「っ!」
背中を何かが引き裂く感覚。熱が来る。
歯を食いしばって耐えた。
「このっ!」
オオカミの腹を潜り抜けた俺は、振り返りざまに右手の人差し指を銃の形にして叫ぶ。
「レッド、メリクリ……なんとかファイア!」
覚えてられるか!
最悪、発動しないという可能性もあったが、人差し指が熱を持ち、そこから炎の玉が発射される。
それは一直線に着地したオオカミの背中へ迫り、
「ギャゥ!」
爆発した。
炎がオオカミを包みこみ、それを受けたオオカミは苦しみ悶えているように見える。
おお、なんか意外と効いてる!?
「ガウっ!」
だが、オオカミが身震い一つすると、まとわりつく炎が一瞬にして霧散した。
「わけねーよな!」
所詮ノーマルだし!
グルルルル……
オオカミが威圧するようにこちらに振り返る。
どうやら怒髪天を突いたようだ。
くそ、あわよくばと思ったけどさすがに都合がよすぎたか。
けど逃げられない少女から、俺に標的が移っただけでも良しとしよう。
あとはどうするか。
戦うか、逃げるか。
とはいえ、俺のファイアもあと2発しか撃てない。
さらになんだか鼓動が激しくなっている気がする。
緊張感のせいだろうか、あるいは死への恐怖。
「おい、てめぇ先走ってんじゃねぇよ!」
と、そこへぴょん吉が来た。
これ以上ないベストなタイミングだ。
「ぴょん吉、アラーギーを使う!」
「てめぇ本当にネジ外れてんのか!? さっき『メモリバインバイン』使っただろ!?」
「ここでやらなきゃ、俺たち死ぬぞ!」
それは咄嗟に口から出た言葉だけど、そうだ。死ぬのだ。
この圧倒的理不尽な自然の暴力に、殺されるのだ。
それはあの天死とかいうものよりはるかに原始的でわかりやすい死。
強い動物と対峙して、食うか食われるかの弱肉強食。
それは人間より獣であるぴょん吉の方が、より本能で感じ取っているに違いない。
苦々し気な表情を浮かべながらも、ぴょん吉は毅然と言い放つ。
「ちっ、だったらさっさとやれ!」
「よし、行くぞ。アラーギー!」
次の瞬間、ぴょん吉が変異した。




