第18話 開拓
フロンティア・スピリット。
確か、開拓時代のなんかだったようなそんな感じだ。
それってつまり――
「……木々を切り開いていけ、と?」
「話が早い子は好きだね。もちろんそれだけじゃダメだけど。雨風しのぐ家屋は必要だし、自給自足するなら畑とかも必要でしょ。あとお花も植える花壇も欲しいしー、ぴょん吉たちが遊ぶ広場とかも必要だなー。あ、あと温泉に入りたいなー」
……はっ!
もしかして快適な生活空間づくりを俺に押し付けようとしてる!?
「どう? この世界を発展させると同時に、元の世界に帰れる道が現れるかもしれない。それに対し、こっちは情報と“労働力”を提供する。ウインウインな関係じゃん?」
労働力と言ったモイラはぴょん吉たちを見ていたから、つまりはそういうことだろう。
こいつ、自分の要望だけ述べておいて、まったく働く気がないな。
「けど、かなりな重労働になりそうだし」
「はい、これ」
と、モイラがどこからか取り出したのは、一振りの斧。
少し青みがかった刃の部分が、少し違うくらいの小型の普通の斧だ。
「なにこれ」
「知らないの? 斧っていう、木と人の頭をかち割る道具だよ」
「人の頭をかち割るのは本来の用途じゃないからな! そうじゃなくて、斧は知ってるけど、これをどうしろって」
「いいからちょっと木を切ってみて」
なんで俺が。
とは思ったけど、これが先へ進むための第一歩ということなら断る理由はない。
斧なんて使ったことないけど、とりあえず見様見真似で近場にあったそれなりの太さの木に打ち付ける。
激しい衝撃が返ってくるだろうな、と思ったがあにはからんや。
斧はすっと、まるで豆腐を切るように木の幹を両断した。
それはつまり、次に起こるのは倒壊ということで、
「うぉぉぉぉ!」
慌てて避難。
動物たちも慌てたように逃げ惑う。
幸いなことに、向こう側に倒れてくれたおかげでこちらに被害はなかった。危なかった。
「たーおーれーるーぞー」
「それ言うの遅い!」
とはいうものの、すごい切れ味だ。
いや、物理法則を圧倒的に無視した切れ味なんだけど、もうそこら辺をツッコむのはやめた。
もう2、3本で試しをしてみても同じ。
「すごいな、これ」
「そりゃオリハルコン製だからね」
「へぇ、オリハルコン……オリハルコン!?」
確かそれって、ゲームとかである、超レアな素材じゃないか?
それをただの斧に使うとか、どんな資源の無駄遣いだよ。
けどその効果は抜群と言わざるを得ない。
「よっし、じゃあここらへんをばっさばっさと行って、さっさとゲート見つけるぞ!」
自然愛護団体がいたらなんと言われるかわからないけど、まさかこの世界にそれはいないだろう。
そうやって意気込んで次の木を切断した。
その直後。
ぴきっ
「ん?」
何かが鳴った。
何かあまりよくないような音だ。
筋が張ったというか、亀裂が入ったというか。
それも俺の手元から聞こえたような……。
「あ」
見ればオリハルコンの斧、その刃の部分に大きな亀裂が走っていた。
まさか、おい、まさか。
そう思っている間にも、亀裂はどんどんと広がり、それが限界まで達した時――
「うぉぉぉぉ!」
刃が砕けた。
オリハルコンの斧が砕けた。
それは俺が元の世界に帰る夢も砕けたようにも見えて、思わず愕然とする。
「あーあーあー、壊れちゃったねー、壊しちゃったねー」
と、そんな俺にモイラが近づいてくる。
「こ、これ……」
「あー、うん。壊れたね。で、知ってる? 他人のものを壊しちゃ、いけないんだよ?」
「ま、まさか……」
「弁償、してくれるよね?」
「い、いや、でもこれって……」
「あれ? レオってそう言い訳する? わたしは別に何回もやっていいとは言ってないけど? 君が勝手にスパスパ使って、使用限界を超えてぶっ壊しちゃったんだよね? それってわたしのせい? それとも勝手に自由に使った君のせい?」
「ぐ、ぐぐぐ……」
「まぁでもわたしも鬼じゃないからね。オリハルコンの素材を持ってきてくれたら、また同じものが作れるから。それでチャラにしようじゃないか」
嵌められた!
善意から貸してあげるような風に見せて、すぐにそれが壊れることを知ってたに違いない。
それで壊したら弁償を求めるとか。
そこらの詐欺グループより性質が悪かった。
「でも、オリハルコンなんてあるわけが――」
「あるよ。今、ちょうど繋がってる『魔法の世界』。そこにオリハルコンはある」
「え……」
「君は『魔法の世界』に行く。そこでレベルアップしながらオリハルコンを探して持ってくる。そうしたらわたしの斧を弁償するだけじゃなく、もっとこの土地を広げられるから、他の世界に行ける可能性が出てくる。もしかしたらそれは君の世界かもしれない。ね? どちらにも良い取引だと思わない?」
お前にだけ十分良い取引だよな。
けど、確かにそれが一番の近道に思えてしまう。
背に腹は代えられない、か。
だから俺としてはうなずくしかなかった。
それに対し、モイラはすっごく良い笑顔を浮かべ、
「さって、というわけで契約成立。あ、逃げたら普通に殺すから。卵みたいに握りつぶすから。あんま手間かけないでよ」
なんだろ、この圧倒的な敗北感。
このなんとも理不尽な仕打ちに、俺の中のモイラ評価はだだ下がりだった。