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第19話 模擬戦

「あー、そういや君。確かスキル使えないよね」


 急にモイラが言い出したのは、俺のスキルについてだった。


 確かにスキル自体は強そうな『ドレッドノート』というものがあるが、それを扱うには容量が足りないとか出てくる。


「せっかくの金づ――いや下僕ができたから、できるだけ生き延びさせて酷使したいけど……」


「おい、今金づるって言おうとしたよな? その後に言い直したけど、まったくフォローになってないよな?」


「ちょっとスマホ借りるよ」


「聞けよ!」


「えっと、『女神デバイス』を起動っと」


「勝手にいじるな!」


 もうなんというか、フリーダムすぎた。

 女神ってこんなやつしかいないのか?


「えっと、ここをこうして……はい、設定完了」


「なにしたんだよ」


「ちょっと拡張スキルを1個入れただけ。安心して。今回は特別出血大サービスでタダにしてあげるから」


 無理やりやっておいて金取るつもりだったのかよ。

 てか金をどこで使うんだ?


「そりゃもう、実家への仕送り……というか姉さまへの上納金」


「普通、上納金って言葉、身内に使わないよな!?」


 ただこんだけ堕落して無敵なこいつも、姉には弱いということか。


「ま、いいから。ちょっと使ってみれば?」


 モイラは俺にスマホを押し付ける。

 くそ、俺のなのに。


 仕方なく液晶を見てみると、そこには例のスキル設定画面が。


「えっと……『メモリバインバイン』? なんだこの色々怒られそうな名前は」


「簡単に説明すると、君の今のスキルの容量は2メガバイトしかないわけで、そのせいでせっかく持ってるSSRのスキルが使えないわけじゃん。だからコストを増やせばそれも使えるってこと」


 それは分かる。

 けど1レベルあがって1メガバイトしか増えないってことは、あとこれを使うのに50くらいレベルが必要なわけで。


「だからそれを省略しようっての。スキル、セットして起動してみて」


 言われるがままに、俺はその『メモリバインバイン』というのをセットしてみた。

 1メガバイトだから、半分使うだけでおさまるわけだ。


「それで、スキルを発動するときはこう言うの。『マスターセットスキル! 精霊たちよ、我が呼びかけに応え我に力を貸せ! メモリバインバイン、発動!』って」


 う……なんかめっちゃ恥ずかしいんだけど。

 けど俺の今後の身の安全を確保するためだ。


「えっと…………『マスターセットスキル! 精霊たちよ、我が呼びかけに応え我に力を貸せ! メモリバインバイン、発動!』」


「ぶはっ、マジでやった! あははー、ぴょん吉、撮った? 撮った?」


「はっ、もちろんですモイラ様。最大画質で録画しました」


「よっし、あとで姉さまにも送っておこう」


「お前らふざけんなよ!?」


 俺は男女平等主義なんだ。

 だから女相手も殴る。

 てか神に性別なんてないからもう殴る。


「うそうそ、普通にスキル名言えばできるから。ほら、今も発動してる」


 モイラに言われ画面を見ると、


『メモリバインバイン 何倍に設定しますか?』


 という文字と数字を表示するコマンドが出ている。


「それで残りメモリの何倍かを設定できるんだよ。今、残りは1メガだから……まぁ50倍とかにしておけば、例のスキルも使えるんじゃないか?」


「お、おお」


 言われた通りに50を入力。

 入力を受け付けると、なんと画面に表示されていた残りメモリが50メガバイトまで増えた。

 逸る気持ちを抑えて、せっかく当たった『ドレッドノート』のスキルをセット……できた!


「おおおおおお、なんかいいな、これ。ってこの効果……」


 説明。発動者のATK(攻撃力)とDEF(防御力)をアップ、INT(素早さ)を大アップ。


「それだけ!? しょぼ!」


「そんなのでも君には超重要なんだけどなー。んー、口で言っても無駄だしめんどいから、模擬戦いこうか。ぴょん吉」


「はいよ!」


「あんたの姿、ちょっと解放するから。ちょっとこの子、もんでやって」


「合点!」


「え? 模擬戦って?」


 俺が疑問に思っている間に、何やら話が進んでいたようだ。

 と、モイラがぴょん吉の頭に手を置く。

 すると、ぴょん吉の周囲に光が満ち、あふれていく。


「うわっ!」


 あまりのまぶしさに目がくらむ。

 そして数秒して光が止んだ。


 ちかちかする視界の中、モイラがいる。

 そしてその横。

 長身のモイラより背が高い、謎の美女がいた。


 白髪のショートカット。きりっとした意志の強そうな目元に尖った鼻は攻撃的な雰囲気を持たせている。

 手足も長い。

 腰は触れれば折れるんじゃないかってくらい細い。

 さらにそこから伸びる美しい脚線は細くて長い。腰より下の方が胴体と頭を入れた分より長いとか、同じ人類かと疑いたくなる。


 しかも極めつけが、なぜかバニーガール姿。

 その胸元からはこぼれそうなほどの豊満が敷き詰められていた。


 正直、千人が見て千人が振り返るほどの美女だが、一体これは……。


「えっと……どなた?」


「あ? てめぇ何見てんだよ。ぴょん吉に決まってんだろ」


 美女から発せられたのは、これまで聞いていたあのウサギの声。


 マジ?


 ぴょん吉っていうからオスだと思うだろうが。


 疑うものの、間違いなくこの美女の口から発せられたもので、やっぱりこの美女はぴょん吉なのか。

 モイラと違って、見た目もスタイルも服装も抜群に良いのに、やっぱり口を開けばぴょん吉以外はあり得ない。

 なんとも残念な仕様だ。


「こいつらの中には人型になれるのがいてね。アラーギーって能力。ちょっとコツがいるんだけど、一番安定してるのはぴょん吉だね」


「モイラ様のおかげで精進してます」


 ぴょん吉がこの中で一番大きい体を折り曲げてモイラに礼をする。


「とはいっても、そう長時間変化してられないし。お互い時間もないから、さっさと始めようか」


「始めるって……何を?」


「言ったでしょ? 模擬戦だよ。レオはそのスキルを使ってぴょん吉の攻撃から耐える。まぁチュートリアルってやつ。それにそのスキルのありがたみってのを理解できるだろうし」


「えっと、いやそれはその……耐える?」


「そ。どうあがいても、今の君じゃ勝負にならないから。だから3分耐えること。それじゃ、頑張って。はじめ」


 そう言ってモイラは一歩、後ろに引く。


「っしゃあ!」


 直後、ぴょん吉が突っ込んでくる。

 その美貌と似合わない怒声をあげて。


 え? てか今はじめって言った?

 さりげなさ過ぎて全然気づかないだろ!


「おいおい、油断しすぎ、だろ!」


 気が付けば目の前に、誰だ。ぴょん吉だ。

 その細長い腕が左右に伸び、俺を包むように抱え込んだ。


 そのまま抱え込まれるようにして抱きしめられた。

 いや、違う。痛い。

 背中が、背骨がぎりぎりと締め付けられる。


 サバ折り、いや、ベアハッグだ。


 背中が本来折れる方向とは逆に曲がっていく。

 抵抗しようにもここまで密着していれば力を入れて逃れることもできないし、抵抗も不可能だ。


 だがそんなものよりは比べ物にならないほどの破壊力を、この技は持っていた。


「オラオラ! さっさとギブするか? それとも骨が折れるのを待つか?」


 いや、その前に圧死します……! 色んな意味で幸せな圧死を!


 ぴょん吉との身長差ということもあり、ちょうど俺の頭が胸の辺りに来るわけで。

 しかもバニースーツからこぼれそうなほどの豊満なわけで。

 それはもう……なんというか顔は極楽、腰は地獄状態。


 あぁ、これが腹上死ってやつか。多分違う。


 それでも、死だ。


 あの天死らに襲われた時とはまた別の恐怖。

 圧倒的な破壊力によって粉々にされる恐怖。


 その恐怖が、俺の体を動かす。

 もうしょぼいとか、悠長なことは言ってられない。


「ぐっ……、スキル! 『ドレッドノート』!」


 直後、これまでにない激しい衝撃が俺を襲った。

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