第三百十七話『免疫』
『何、が……‼』
「……お前、ボスの中で見てなかったのか?お前の魔術は、一回打ち破られてんだよ」
自分を支えていたあらゆる力が消えうせたことに絶句しながら、『カヴォイ』はゆっくりと地面に倒れ伏す。最早何もできない存在となったそれにゆっくりと歩み寄りながら、カヴォイは堂々と笑みを浮かべた。
「どこまで行っても、お前の戦い方は魔術に依存してる。魔力に依存してる攻撃なら――打ち消せない道理は、ないよな?」
『滅茶苦茶を、言ってくれるな……!あの時は、何年もかけて準備した機構を作動させただけだろう‼』
「ああ、そうだ。それで正解で、今回もそれだよ」
余計な小細工はしていない。この戦いに向けて、ずっとずっと研究していたことが今実を結んだだけだ。……ロイドがまいた種は、『カヴォイ』の命脈を断つには十分すぎるほどに大きな成果を残していた。
「持ち運びができないなら、出来るようにすればいい。そうなってる可能性を考えられないお前だから、俺に――俺らに負けたんだよ」
『ふざけるな。……そんなことで、僕が、神が敗れるなんて、そんなこと!』
「あるんだよ。……ここに、ある」
例えば、英雄にすべての神威を奪われた神が地に堕ちたように。今こうして、人と魔族の意地によって退屈を持て余した神が地に倒れ伏しているように。……神とは、存外簡単に敗れ去る者なのだ。……自分に与えられた役目に胡坐をかくものが、与えられた役割を超えようと足掻く者たちに勝てるものか。……いつだって、この物語は覚悟の物語なのだ。
「中途半端な覚悟でそこに立ったお前が勝てるほど、この世界はやわじゃない。……僕が、そう作ったんだよ。知らないうちにね」
ずっと退屈だったのは、世界の仕組みが強固だったからだ。カヴォイが、無意識のうちにそう作ったからだ。……そこに退屈を見出していたのならば、それはカヴォイが摩耗してしまっていただけなのだ。……今になれば、それがよくわかる。
「お前と僕は違う。……決して同じにはなれないし、ならせない。……お前に、この世界を渡すかよ」
すべてを経験して同じ結論にたどり着いたカヴォイにならば、あるいは託せたかもしれないが。目の前にいるのはカヴォイであってカヴォイではない。……『名もなき神』に、この世界は渡せない。
『……自分殺しとか、狂気が過ぎるぞ』
「退屈しのぎにやろうとしてたやつがよく言うよ。……正当防衛だ、これは」
カヴォイが無意識にこの世界を強く作ったのならば、カヴォイ自身がその意義を果たそう。この世界の免疫として、外敵を排除する役割を果たそう。……そこで、カヴォイの歩みは止まってしまうけれど。もうぼろぼろのこの体は、その役目を終えてしまうけれど。
「……幸いなことに、後釜はもう決まってるからな」
『……そうかよ。幸せ者だな、お前は』
敗北を悟ったのか、『カヴォイ』は目を閉じて動かない。そこにゆっくりと歩み寄って、左手をゆっくりと振り上げる。その手に、空間を引き裂く力が集中して――
「……じゃあな」
そんな僅かな言葉を最期に、『カヴォイ』はねじれの彼方へと消えていった。
ということで、ついにすべての戦いが決着しました!ここからはエピローグと言いますか、戦いが終わった後の世界の話になりますので、ぜひカヴォイの覚悟の行く先を見届けていただけると嬉しいです!
――では、また明日の午後五時にお会いしましょう!




