本当の二人で、生きていく
京都の私立男子校の教員をしているタチバナは次の誕生日で35歳になろうとしていた。
公立と違い働くものの権利のような有給休暇も取りにくいし保護者の学習環境への希望や期待も大きく日々の学生への個別指導にも骨がおれるが、タチバナの能力が認められて今年は3年生の担任と学年主任を受け持つことになり、とてもやりがいがある多忙な日々を送っていた。
タチバナは保護者から人気があるだけでなく学内学外関係者にも広く信頼されていたので、毎年採用される若い教員たちからはいちばん慕われていた。
独身で時間があって稼働しやすく何年も仕事だけに没頭しているうちに、他校への交換授業出講や海外修学旅行準備と随行担当など責任ある学外交渉担当なども年々増えていっていて、タチバナにほまだ恋人と呼べる女性も居ないままだった。
ある日、放課後の補講を担当してから片付けていつものように学校を出て世界遺産の寺の前を帰る途中、
ガラス張りの豆腐カフェから長いサラサラの髪をなびかせて細い若い女の子が飛び出してタチバナに向かって走り寄ってきた。
‘センセイ!’
’?‘
‘7年ぶりです…’
’エミちゃん?だよね?‘
‘ずっともらってたメールは読んでました…’
’いつか返信してくれたらと思ってね、もう7年になるんだね‘
‘京都に来ました、探しましたよ’
’僕を見つけてくれたの?‘
‘ごめんなさい、大学で3人彼が出来たの、てもね、今はいないわよ’
’そうかぁ‘
‘センセイ、少しおじさんになったね’
‘そうだよね、エミちゃんは綺麗になったよ‘
‘また、一緒に過ごせないかな?’
’僕はずっと待ってたよ、こんな日が来るように、祈ってた‘
‘話がいっぱいいっぱいあるのよ!’
’ゆっくり、全部聞かせて欲しいな‘
‘年上も年下も付き合ったけど恋人から先に進みたい人は居なかったわ…だって…’
’仕事はどこで?‘
‘京都市内よ、医大病院の研修医に決まってるの‘
‘良い仕事を選んだんだね’
’じつはね、偏差値をあげなくてもおばあちゃんの遺産で私立に入学できたから…なんとかね…‘
‘住まいはどこだい?’
’寺町今出川のマンションよ‘
‘僕は去年から東山丸太町なんだ’
’近いの?‘
‘自転車で10分程かな’
’近いわね!’
‘エミちゃんに新しい出会いがある前に、僕がまた恋人に立候補してもいい?’
’それを確認しにきたのよ!‘
‘ほんとに?’
’もう、私も大人になったよ、10歳以上年下だけどね‘
‘今日は夢のような日だ…’
’良かった、センセイがまだ独身で…涙ぐんじゃって、可愛い‘
‘エミちゃん、痛い辛い思いをさせて、本当に悪かったね…’
’7年ってすぐだったかもね‘
‘エミちゃんは人生の…’
寺の大きな門柱のたもとで、エミはまだ話しているタチバナにもう我慢できずに長いキスをした。
暖かな優しい心が通いあって周りの現実が夢のように思えたが、少し目を開けると数名の下校中の生徒が見て固まっているのが見えて、タチバナは可笑しかった。
’思春期の男子生徒には刺激が強すぎるな…‘




