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第13話 信頼関係

「やばい、遅れた!」


 俺はいつもの場所へと急いでいた。

 もちろんホビット族への食事提供の場所へ、だ。

 早朝外に出た瞬間に甲虫に出くわしてしまったせいだ、なかなか頑丈なやつで手こずってしまった……

 そのせいですでに日光が森を明るく照らし始めていた。

 通いなれた道を全速力で駆ける。両脇にはワンコが並走している。

 俺の身体能力もこの歳でさらに向上した気がするが、ワンコ達の成長も著しい。

 アインたち4匹は森の中を立体的に移動して狩をする、たぶんあの4匹に襲われたら俺も対応できないと思う……

 俺自身も、体内のナノマシンによって支えられていた肉体自身を鍛えることで一回りぐらい体がしっかりとしてきた。アンチエイジング効果もナノマシンは高いので、40近いこの肉体もまだまだ現役なようだ。


 そして……予定外にホビット族と完全に対面してしまったのだ……

 

「は、はーい……」


 そーっと籠を置きながら後ずさりをする。犬たちは背後に控えておくようにサインを出す。

 ホビットたちは驚いて警戒しながらもこちらの様子を伺っている。

 俺の置く籠の中からはいつもの果実や肉、パンなどが見えているために、そちらにも注意を払っていることが伺える。

 そーーーっと籠から距離を取ると、ホビットたちは籠を背負うように囲い込んでいく、そしてかごの中身を確かめると予想外の行動に出た。


「く、くれるの?」


「ギッ! ギッ!」


 警戒しながらも、木の実や花を置いて距離をとった。

 おれも相手を刺激しないようにそーーっとそれに近づいて回収していく。

 お互いに緊張感あふれる接触だったが、なんとか敵対せずに済んでホッとした。

 それからは、お互いに警戒しながら距離を離していって、解散することができた。


「はーーーーー、き、緊張した……」


 予定していなかった面会に想像以上に消耗した俺は、拠点に戻ってベッドに横になる。

 

「でも、受け取ってくれたな……」


 なんとなくベッド脇に置いてある籠を手に取る。

 籠づくりは寝る前の習慣になっており、職人の域に入ってきたと思っている。

 最初に作ったものより丈夫で大きいものから、小さいものまで多種多様な編み細工を作れるようになった。ホビットたちも生活の中にこの籠を利用しているし、編み細工を学んで取り入れ始めている。

 食事も焼いたり、果実などで味付けをしたりと文化が出来始めていた。


 食が足りると他に目が行くようになるようで、住居に工夫を凝らし始めたり、衣服が細かく変えられたりするようになった。

 そして何より、新たな子供が一気に増えた。弱い種族ほど子供をたくさん作るのはどこの星でも同じなのだろうか? それにしても計算上妊娠期間がわずか2ヶ月ぐらいなことに驚いた。

 生物としての構造は人間に近いと予想されるホビットたちが妊娠二ヶ月で出産できることはかなりすごいことだと思う。今後も彼らの生活からは目が離せない……。

 ストーカー日記より抜粋。


 それからは、お互いを完璧に意識しての取引? になっていく。

 ホビットたちは俺のことを警戒しながらも興味はあるようで、俺が立ち去った後もこっそりと後をつけてくるようになっていく。

 少しづつ拠点手前に作った第二拠点まで誘っていく。

 一応念のために本拠点を明かすのではなく、生活場所と軽く農場、それと溢れた動物たちの第二牧場を持つ第二拠点を作成した。

 一番苦労したのが水路だ。

 湖から引き込んだ水路に水車を設置して揚水装置で高所に水を上げて水路で第二拠点に引き込むという方法で水場を確保した。農業にも、そして畜産には大量の水が必要になる。

 豊富な水が利用できる湖が存在することは本当に幸運であった。

 わかりやすく第二拠点にたどり着けるように途中までは道の整備も行った。

 森が切り開かれ、左右を木柵によって保護された均された道をたどれば容易に第二拠点にたどり着くという寸法だ。

 完全な罠に誘い込む手法だなぁと我ながら思ってしまう。

 そうして、少しづつ、少しづつホビット族との距離を詰めていく。


「やあ!」


「や!」


 いつの間にか挨拶を覚えてくれて片手を上げて答えてくれるようになった。

 すっげー嬉しかった。

 今日も籠を置いて物々交換する。

 いつもと違って隠れることなく俺の背後をホビット族が3名ほどついてくる。

 俺が振り返ると……


「や!」


 手を上げて挨拶してくる。うん、かわいいなこれ。

 とうとう第二拠点入り口までホビット達を誘い込むことに成功する。

 防壁に囲まれた一帯は流石にちょっと怖いらしく、少し離れたところで立ち止まっている。

 俺は門を開けたままにして拠点の中に入っていく。

 しばらく迷っていたが、ホビットたちは拠点の中に入ってきた。

 木々が切られ開かれた大きな空間、動物たちが暮らしているエリアなどをすごく興味深くキョロキョロと見渡している。

 

「いる?」


 俺は小さな籠に果物を入れたものを彼らの前に置いてみた。

 長い距離を歩いてきてのどが渇いていたのか、飛びついて果実にかぶりついている。


「あっ!」


 片手を上げながら今度はちょっと違う言葉で答える。

 これは俺が花とかもらったときに「ありがとう」って答えているからだ。

 それからしばらくは拠点の中をキョロキョロと観察して、満足したのか帰っていった。


「ぃよっしゃー! とうとうここまで来たぞー!!」


 ホビットを送った後に思わず叫んでしまった。

 この星に落ちて、まぁホープを直すという目的もあるが、やや退屈な生活に現れたホビット族と仲良くなろうイベントが先に進んだことに達成感が俺を包み込んだ。


「一度拠点に入ってくれればこれからはいろいろできるぞー、やっとこのホビット用テーブルと椅子も使える、ふふふ」


 俺はずっと楽しみに用意していたホビット用家具の数々を倉庫から出しながら、気持ちの悪い笑みを浮かべるのであった……


 



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