第12話 餌付け
「やはり、掴むなら胃袋だよな」
ホビット篭絡作戦の概要は簡単だ。
まずは気がつかれないように食事を提供し、その食事が我々から提供されていることを気がつかせて、交渉もしくは友好関係を結ぶ。
「言うは易く行うは難しってやつだな」
傲慢かもしれないけど、彼らの食生活も改善させてあげたい。
生肉食は、適正に処理されていればとても美味しいとは思うが、寄生虫や腐敗など衛生面から見ても非常に危険が危ない。内臓も気にせず食べていたが本当に危険だ。
肉の熟成までは教えられないだろうが、せめて火を通して食べること、それに味付けのすばらしさを覚えてほしい。
この森も探せばいろいろなスパイスや岩塩も存在している。
調味料備蓄はまだ数年分あるが、俺たちもこの星にあるものを積極的に利用している。
「そういえば、海はあるのだろうか……塩がきつくなりそうだなぁ長くなると」
ホビットに渡すための肉を解体しながらそんなことを考える。
文化を伝えるとかそんな大それたことはもちろんやったことはない。
ただの気まぐれで偽善的な行動であることは自分が一番理解している。
労働力が欲しい、というのが基本的には本心であることを隠すつもりもない。
「正直……少し寂しくなってきた……」
この星での優雅な生活も、アイン達犬たちとのつながりやカイルとミケルとのやり取りもあるから孤独ではない。それでも、やっぱり独り言だけなのはちょっと辛い。
軍時代にも数年にわたる単独行動はあったが、それでも本部との連絡など人を感じながらの行動だった。
それと比べると現状は、直る見込みがなかなか見えない宇宙船、それに直ったとしても連絡相手がいない未知の惑星、不安を感じるなというのも無理な話だ。
「本当に素晴らしい星なんだよ、本当に……」
作成された地図には未だ果ての見えない森林地帯。拠点周囲は伐採によって少しその密度を下げているが、おかげで周囲の実りは飛躍的に増えている。
間伐材は建築資材としてあっという間に消費されてしまう。
そうして間伐地帯が広がっていく、間伐が行われた場所は太陽が下地まで通るようになり、植物の育成が刺激され豊かになる。豊かになった植物を求めて小動物が増えてくる。
今のところは理想的なサイクルが出来上がっている。
わんこたちのおかげで広大な狩猟範囲から適切に獲物を得ることが出来ている。
それ以外にも畜産と農業で日々の糧を得ている。
すでに一人と二体のアンドロイドの限界に達しているのは感じているし、過剰産出気味なのも理解している。
「気に入ってくれるといいな」
正直本心はここだ。
俺の作った料理を気に入ってくれたらいいな、もしよかったら友達になってくれないかな?
そんな感じだ。
生肉を貪っている生物に、綺麗に調理した料理をあげても食指は動かないだろう、とりあえずきちんと肉を分けて、ごく少量の塩と香草で風味付けしただけの焼いた肉。それと果実類をひとまとめにして籠に入れて、その籠も森の植物で編んだ物、ホビットの村の側に定期的に置いておく。
明らかに加工された籠と食事を見てホビットが知的生命体の存在に考えを巡らせたころに、そっと食事を置く、自分の存在を知らせるようにして、敵対心が無いことを理解してもらって……仲良くなりたい……
「ま、そんなにうまく行くわけがないけどな……」
とりあえず準備ができたので籠を担いでホビット族の村から彼らがよく通っているために獣道になっている場所に籠をそっと置いて遠くから観察してみる。
予想通り5人ほどの集団が獣道を周囲を伺いながら歩いてくる。途中で焼いた肉の香りに気がついたのか鼻をヒクヒクとさせながら籠へと接近してくる。
落ち着いて観察してみると、なかなか愛嬌のある顔をしている。
籠の中の肉に気がつくととりあえず口に入れて見るようだ。
どうやらお気に召してくれたようだ、雄叫びを上げて貪り食べている。
となりの果実も別のホビットが奪うように食べている。
「あーあ、村に持って帰ってよ……」
結局あっという間にその場にいたホビットたちだけで平らげてしまっていた。
その後、籠を興味深そうにひっくり返したり中に石を入れたりして、最終的には持って帰っていった。
どうやら、作戦の第一段階は成功したと見ていいだろう。
それからは、焦らずに同じことを繰り返す。
なれてきたようでホビットたちは朝日が昇るとまっすぐにその場所へと向かうようになったために、日が沈む前に食料を置いて早朝に観察。終わったら野良仕事というのが俺のサイクルになった。
「今日は穀物も食べてみよっかー」
籠にパンを入れながら話しかけている俺のことをカイルとミケルが憐れみを含んだ目で見ていたが、俺は気にしない。
この生活を初めて以前よりも肥大した肉体、ムキムキのいいおっさんが子供に持たせるお弁当を作っているようなそんな絵面かもしれないが、俺は気にしない。
今では籠2つ分のお弁当を届けている。
ホビットたちもすぐに村に持って帰って皆で分けて食べるようになってきた。
3ヶ月もすると明らかに体つきが変化して健康的な肉体になっている。
「そろそろ第二段階だな……」
その日から、夜明けとともに籠を置くようにする。
すこーしタイミングを遅らせれば、籠から立ち去る影をホビット達が目撃するようになる。
たまにアイン達に咥えさせて運ばせたりして、少しづつ俺たちの存在をアピールしていく。
焦らず、ゆっくりと関係を縮めていく、もちろん村の監視も行っている。
「完全にストーカーじゃないか!」
その事実に気がついた頃、ホビット族たちが新たな行動に出るようになってきた。
「これは……」
食事を置いていた場所にどんぐりなどの樹の実や花が置かれるようになった。
初めてそれを見た時、電撃が走った。
「……か、かわいいじゃないか……」
すでにオレの心は彼らに盗まれていたのである。




