第10話 数の力
畑から得られる実りもいろいろと種類が増えてきた。
イモ類、トマト、キュウリにキャベツ。
温暖な気候と安定した天気のおかげで植物の成長も早い。
その日も農作業に従事しながら、痛んだ野菜を隣の家畜たちにあげたりしながら、優雅な時間を楽しんでいた。
ミケルが俺の足を尻尾で叩く。
「ああ、敵襲ね。はいはい」
俺は色々と改造したスパイクのついたこん棒のような鈍器を最近は良く使っている。
「ん? 気をつけろ、数が多い? オーケー全部ぶっ潰してやるよ!」
いくら数が多くてもこの星の虫は大したことはない。
それに、虫用の兵器も準備してある。いざとなったらそれを使うつもりだし何の問題もない。
……完全に慢心していた。
「……地鳴り……? ……!? まさか、足音!?」
外に出て迎撃するつもりだったが、すぐにかぎ爪付きのロープを使って防壁に昇り、監視塔からカイルが戻ってくる方向を確認する。
「!! 蟻かよ!! アイン! ツヴァイ! トライ! カエデ!! ホーム!!」
傍に控えていた4匹の仲間にコマンドを告げる。
4匹は全速力でホープの内部へと駆けこんでいく、4匹は生体登録をしたのでホープに入ることが出来る。この星の中で最も安全な場所だ。
アリ型昆虫は、最も厄介で恐ろしい敵だ。
個体の強さは中程度だが、何よりも圧倒的な数、数、数。
群れによる突進力はいくつもの戦士たちの命を奪っている。
「出し惜しみなしだ全部使うぞ!!」
虫用の秘密兵器、簡単に言えば殺虫剤だ。
森に生える除虫菊、ムシヨケギクによく似た植物を大量に見つけて、そこから殺虫剤というか忌避剤を作成してある。殺虫成分であるピレスロイドだけを抽出できれば非常に強力な薬も作れるが、現状は虫を嫌がらせて近づけにくくするぐらいの能力になる。
拠点を潰されるわけにはいかない。
堀に流れ込む水と排出をいったん止めて、溜まっている水に現在作っていた薬剤を全て流し込む。
独特の臭気が周囲に立ち込めてくるが、これが虫たちの足を止めてくれる。
間一髪準備を終えたと同時にカイルが拠点に戻ってくる。
マコウトオモッタガムリダッタスマナイ。謝罪を受けるが気にしない。
「良く無事に帰ってきてくれた!」
俺は防壁の上で敵を待ち構える。
そして、一匹また一匹、波のように真っ黒な蟻たちが現れる。
周囲に漂う虫よけの香りを感知して波の速度が低下するが、一部は果敢にも防壁に取りつこうとしてくる。その蟻を鈍器で潰していく。
時間をかけていられないので、頭を一撃で潰していくよう心掛けて、次から次へと叩き潰す。
「あいつ変な色だな……たぶん、おっと! やはりか!」
少し色味の違う蟻が何か液体をこちらにかけてきた。
液体がかかった部分がじゅうじゅうと音を立てて変色していく。
たぶん、蟻酸だろう。
皮膚につけば酷い炎症を起こす。気をつけなければならない。
うまく手に入れば防腐剤とかにも使えるんだが……今はそれどころじゃない。
すっかり拠点の周囲は蟻に囲まれてしまった……非常にまずい。
「これだけ犠牲が出てるんだ……ひいてくれないかね!」
もう何体倒したか覚えていない、堀に死体が重なってそこを足場に使われ始めてしまっている。
「イチかバチかだ!」
俺は腰から油の入った竹筒を取り出して、折り重なった蟻の死体にぶちまける。
アリによって砕かれた防壁の破片にライターで火をつける。
「せーっの!」
大きく息を吸い込んでそこに火種を投げつける。
油に引火して、次に蟻たちの吐いた酸が揮発したものに一気に燃え広がり巨大な火柱が起きる。
そしてそのまま蟻たちの体を焼いていく。
防壁にも火が飛ぶが、樹液などを利用して防炎処置は行っているので、すぐには燃え広がらない。
それでも少しづつ黒変して燃え始める。
同時に堀の水分が加熱される。
そうすることでより一層殺虫成分が周囲に立ち込める。
拠点を囲う蟻たちも異常行動を取って死ぬものも出始める。
俺も訓練してそれなりに自信があったが、すでに息が上がっていたせいで、めちゃくちゃ苦しい。
……しかし、蟻たちは拠点を攻めることを益なしと判断して引いてくれた……間一髪と言える。
もちろん、後始末はものすごく大変だった……
堀から液体を流しだし、周囲に立ち込める殺虫成分が流れるのをまつ。
当然家畜も体調不良を起こして、死にはしなかったが、それからしばらく食が落ちたり産卵が停止したりと散々だ。
防壁も大きく損壊したり炎上したりと作り直さなければいけなくなった。
大量の蟻の死体は穴を掘って全て燃やした。
周囲に大量に殺虫剤を散布した影響で、しばらく虫の影響を受けなくて済んだが、しばらく凄い臭かった。
「飯が……まずい……」
アインたちもものすごく嫌そうにしばらく暮らすことになってしまった……
緊急事態だから仕方がなかったんだ……
「いや、本当にアレがなかったら今頃死んでいたかもしれない……
本当の緊急事態の時には迷わず使うぞ」
しばらくは拠点の修理と防衛設備の開発に終われて忙しい日々を送ることになる。
広大な森の中には使える物が大量に存在しており、それを使って少しづつ防衛設備を構築して拠点範囲も広げていく。
「俺一人と4匹しかいないのに、こんなに巨大にしてどうするんだろ?」
中央の高台から拠点全景と、今後の拡張計画を眺めながらひとり呟く。
カイルとミケルは生暖かく俺のことを見つめてくれている。
アイン達は尻尾を振って俺が投げる棒を高台の下で待っている。
危機は訪れたが、穏やかな日々を取り戻しつつあった。




