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悪役令嬢に転生したけれど、とりあえず放置していいですか?  作者: シエル


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閑話〜クロードside






僕はクロード・アシード────アシード王国の第一王子で、このまま順当にいけば王太子となり、この国の王となる。


王族としてその為の教育も労することなくこなし、皆の望む『王子像』を演じる……。



教育係たちが「クロード王子殿下は天才だ!」と、父上に報告していることも知っている。


そんな日々の繰り返しで、僕は少し退屈だった。



けれど、そんな退屈な日々に変化をもたらしたのは、一人の令嬢だった。




初めて見たときは、ただ『可愛い子だな』としか思わなかった。


だがそれは、他の令嬢にも言えることだった。



貴族は容姿も『価値』の一つだ。



他の令嬢たちと同じく僕と母上に礼を尽くし、顔を上げたとき……彼女だけ、反応が違ったんだ。




ベアトリス・アッシュローズ公爵令嬢────。



家族に愛されている『普通』の令嬢だと思った。




今日のお茶会が僕の『婚約者』を選ぶものだということも、知っていた。


令嬢たちが婚約者の座を狙っていることも分かっていて、皆が一様に頬を赤らめながら自分をアピールしてくる。



自分の容姿がいいことも分かっているから、ただいつも通りに微笑んでいた。



けれどベアトリスは、僕を前にしてどこか感心したような表情を浮かべた。


パッと見は淑女として身につけた笑みだったけれど、目が違う気がした。



そしてその後、兄であるウィリアムに呼びかけられても気付かないほど、上の空になっていた。



王族の前で緊張し動揺してしまう者は少なからずいる。


けれど、ベアトリスの言動は他の令嬢たちと違って……少しだけ、彼女に興味が湧いた。




アッシュローズ家が去った後も招待客たちの挨拶を受けながら、彼女の姿を密かに目で追っていた。



ウィリアムたちと別れた後、彼女は何故か王族席から一番遠い席に着き、お菓子をぱくぱくと食べ始めた。


こういう場のお菓子は形ばかり用意されている物で、殆ど食べることなく他者との交流に勤しんでいる者が多い中、ベアトリスは誰かと会話を楽しむこともなく、ひたすらお菓子を頬張っている。



そんなところも面白く感じて、こっそりと隣に座ってみたけれど、僕に気付いた瞬間すごく動揺していた。



内心笑いが止まらなかったけれど平静を装い、ウィリアムから読書が好きだと聞いていたからその話を振ってみた。


すると彼女は、『魔法理論』を学んでいると答えた。



魔法理論は魔法を学ぶうえで、とても重要なものだからおかしなことではないけれど、文章が堅く僕たちの年齢で読んでいる者は少ない。



さすがウィリアムが、『妹のベティーは天才なんだ!』と自慢するだけはある。


もっと彼女のことが知りたくて、更に深く話そうとしたところで邪魔が入った。




ナタリア・シュバルト公爵令嬢────。



彼女はたまに父親に付き添って登城する。


一度公爵に紹介されたことで『顔見知り』となったけれど、他の令嬢よりも自分が僕に近い存在だと勘違いしたのか、許可もしていないのにファーストネームで呼んでくる。



せっかく楽しく過ごしていたのに、その瞬間心が一気に冷えていくのが分かった。


彼女と親しいと勘違いされても困るから適当な理由をつけて追い払ったけれど、ベアトリスが何だか気の毒そうな表情をしているのを見て、再び面白く感じた。



それでも水を差された会話に戻るのも気不味そうだったうえ、一応平等に交流をしなければならない為、仕方なく他の席に移動することにした。




その後、ベアトリスが会場から消えたとウィリアムが慌てて探し始めたから、近衛騎士に命じて共に探させた。


見つかった頃には気分が悪くなっていたようで、顔色が青褪めていた。



大事をとって夫人とウィリアムもお茶会を辞してしまった。





──────





「クロードはアッシュローズ公爵令嬢が気に入ったのかしら?」



「……何故、そう思ったのですか?」



「あなたは苦労することなく何でもこなしてしまうから、いつもつまらなそうに見えたけれど……アッシュローズ公爵令嬢を見ていたときだけは、瞳が違ったもの」




お茶会を終え、母上と紅茶を嗜んでいると、そう告げられた。


普段、僕が何を考えているかを知られているとは思わなかった。



だから正直に「彼女と婚約したい」と伝えると、母上は楽しそうに微笑んだ。




父上に願ってアッシュローズ公爵へ婚約の打診をしてもらうと、公爵はかなり渋って何度も断ろうとしたらしい。


公爵はベアトリスをかなり溺愛しているようで、まだ婚約者を考えていないと主張したようだ。




……まあ、誰が相手でも拒否していただろうけれど。




王命とまではいかずとも父上は押し切ったらしく、正式に婚約が結ばれることとなった。



婚約契約書を交わす為に公爵とベアトリスに登城してもらったけれど、公爵はもちろん彼女も、署名をするのに気が進まない様子だった。



せっかくだからと交流の為に庭園のガゼボでお茶会をしたとき、直球で婚約に乗り気じゃないのか確認すると、彼女は口ごもりながら答えた。



────だが、それが本当の理由じゃないだろう。



その瞬間、心の中から黒いものが湧き上がり、少し漏れてしまったようで少し怯えさせてしまった。


そのことを反省しつつ、自分の感情がこんなに揺らされた事実を新鮮に感じた。




恐らく彼女は、どうにかしてこの婚約から逃げようとしているだろう。



公爵家から婚約解消を申し出るには、相応の理由が必要だ。


きっと王家の方から言い渡されることを期待しているだろうけれど────僕は逃がすつもりは一切ない。



ならば、ベアトリス以外に相応しい者はいないと周囲に認めさせて外堀を埋めてしまえばいい……。


僕は彼女に気付かれないように、口角を上げた。




ベアトリスと別れた後、僕は私室で農業の改善案をまとめた書類を作成し、父上に提出した。



もちろん、発案者の欄にはベアトリスの名前を記して……。




「ふむ……。 これをアッシュローズ公爵令嬢が?」



「はい。 他の領地でも不作に喘いでいる領民がいると聞きました。 すべての領地が改善するとは限りませんが、これで変わる場所もあるかもしれません」




父上は書類に目を通しながら顎に指を当て、考え込んだ。




「一度、貴族院会議に通してみよう。 試行してみたい者がいれば、その結果を共有することが出来るからな」




そう言いながら顔を上げ、穏やかに微笑んだ。



この案が貴族院で通れば、必然的にベアトリスの功績となり、実績となる……。


こうして彼女の評価を上げていけば、外堀を埋められるだろう。




父上の執務室を辞して自分の私室へ戻る道中、僕は無意識にほくそ笑んでいた。






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黒い!黒いよ、王子様!
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