デート/レオノール視点 3
デートの3文字が原因だ。
「……こんなことなら、素直に馬を出して貰えばよかったですね。私、遠くへ行きたいです」
あはは、とあえて明るく振る舞ってクラウディオに背を向けた。
(ううっ)
顔を見られないようにして、密かに身もだえる。
(なんて可愛い人なの……っ。意識してますって丸わかりじゃないの。 だったらなんで今更デレたのよぅ)
悶絶の末にレオノールが漏らしたのは溜息だ。
(クラウディオ様。貴方はどういう気持ちでここまで私についてきたのかしら)
レオノールの望む通りに付き合ってくれているのは喜ばしい。
レオノールへの理解を示してくれるのはありがたい。
だけど、どれもこれも曖昧だ。
肝心なところはわからない。
こんなに思わせぶりな態度を取っておきながら、気持ちを曖昧にするなんて……
もしも理解してやっているなら、相当にずるい男だ。
でもわかっていなそうなところが初心に見えて、非常に罪作りである。
「それなら馬を借りられる場所がある。遠乗りに行こう」
クラウディオの提案に顔を上げる。
「はい。是非ともっ」
ずるい男だと思いつつも、クラウディオからの誘いならどんなことでも即応じてしまう。
これが惚れた弱みというものか。
(まあ、クラウディオ様はデートっぽいことに拘ってる訳じゃないし。私が何を好きなのか知りたいわけだから、その通りに。素直に振る舞うのみ。……と行きたいけど。私らしさって何だろう)
レオノールの素はどんなものだったろう。
クラウディオに認められたければ淑やかに。上品に。
これまで自分に課してきた戒めを解いたらどうなるだろう。
王都郊外の草原を馬で駆けてみて久しぶりに、レオノールは自分自身を取り戻したのかもしれない。
城壁の外へ抜けると、風が急激に変わる。頬を撫でるのではなく、押し返すような勢いだ。
王都は広いので敷地内だけでも牧草地があるが、城壁から遠ざかるにつれて、草の丈は徐々に高くなり、やがて濃い緑の海となった。
「クラウディオ様! この先の湖まで競争しましょう!!」
「いいだろう」
丘陵の先に太陽の光を受けて輝く湖面が見える。
草原の緑とのコントラストが美しい。
馬を歩かせて風景を楽しんでいたレオノールは堪えきれなくなって叫んだ。
また、競争か。
とこぼしながらも、クラウディオはすんなり応じてくれる。
あんなに頑なだったのに。
偽物じゃないかと疑いたくなる柔軟さだ。
「じゃあ、行きますよっ」
レオノールの声が風に乗って響いた。
レオノールは馬首を巡らし、腹部を蹴って合図を送る。
二人はほぼ同時に馬を走らせ、草原の海を切り裂く。
朝陽が金と銀の矢となって降り注ぎ、風が髪をなびかせた。




