表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚  作者: きぬがやあきら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
75/90

デート/クラウディオ視点

 今回のお忍びに、クラウディオは2つの目的を持っていた。


 一つは純粋に、レオノールの望みを叶えること。


 婚姻の儀式からずっと、レオノールには不本意な生活を強いてきた。


 今回の療養生活こそレオノールを守るためのものだが、それ以外はクラウディオのエゴだった。


 魔獣を退け、アルヴァロを救ってくれた行為は国益そのものだし、讃えられるべきものだ。


 それで充分だとは思わないが、多少の無理をしても速やかに叶えてやりたかった。


 それと時間を共有し、少しでもレオノールを理解したい。


 それがもう一つの願望だった。


「朝露を吸った土の匂い、清々しいですね!」


 マントを靡かせながら傍らでレオノールが歌うように言った。


 うっすらと東の空から漏れる陽光を頼りに馬車道を下っていると、やがて夜がほどける。


 城下に降りるまで、レオノールは馬車を使わず徒歩で行きたがった。


 その辺りも彼女らしさなのだろう。


 藍に蜜柑色を一筋塗ったばかりの空は次第に白み、街道に出る頃には王都が目を覚まし始めた。


 朝露を吸ってしっとり湿った石畳を、最初の車輪がコトリと音を刻んで進む。


 開門の時刻だ。


 色とりどりの花を積んだ荷車、野菜を詰めた木箱の荷馬車が次々と運び込まれる。


 鐘楼が六つの打刻で朝を告げると、街は一段階、音量を上げた。


「……ん~いい匂い。焼きたてのパンだぁ」


 レオノールが鼻をひくつかせる。


 路地の奥の窯場から、焼きたての小麦がふくらむ甘い蒸気が流れてくる。


 裸足の少年が板に並んだブールを抱えて通りすぎ、「朝一番だよ!」と叫ぶ。


 別の並びからは、魚屋の鋭い包丁が骨を断つ乾いた音、薪をくべるパチパチ、搾りたてのミルクを金属缶に注ぐ澄んだ音が立て続けに響く。


「パンなら城の厨房でも焼いているが、さっそく腹ごしらえをするか?」


「嫌だなぁ、市場の匂いって独特じゃないですか。屋根の無いところですぐに焼くからかな? この空気感に浸るのが楽しいんです」


 言葉通り、レオノールは門を潜った瞬間から、空気そのものを味わうように大きく深呼吸していた。


 歩幅はゆったりしているが、両の眼は左右に忙しなく動いている。


 まるで初めて街を見た子どものように、何の品物にも興味津々だ。


「懐かしいか」


「んん、根が庶民なんですかね。朝市ってテンション上がるっていうか。……やっぱり、ちょっとお腹に何か入れません? 先ずはミルクとパンで」


 空気感がどうたらと講釈を述べておきながら、掌を返したレオノールにクラウディオは失笑した。


 衒いのない素直さは心地よい。


「いいだろう。少し待っていろ」


 クラウディオは指示を出すと匂いの発信源であるパン屋の軒先、ミルクの屋台を巡って必要な品を買った。


 袋を2つ持ちつつ颯爽と戻ると、レオノールが興奮気味に飛び跳ねる。


「どうした?」


「クラウディオ様ったら、流石! 王子様みたい。カッコいい」


「何がだ。おかしな台詞を」


 買い物をしただけでキラキラしい目を向けられて、クラウディオは狼狽する。


 王子様みたいって、本物の王子なのだから訳のわからん形容だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ