クラウディオの提案 5
「何でも? いいんですか?」
「無論だ。君は物欲がなさそうだからな。欲しいものなど限られている……」
クラウディオは具体例をあげようとして、口ごもった。
困ったように赤くなり、目を逸らす。
これには、ピンときた。
レオノールは魔王討伐の褒賞に、王子を望んだ図太い女だ。
ここでまた「貴方が欲しい」とか強請られたら、今度こそ逃れられないと危惧したのだろう。
「あー、はいはい。欲しいものは一つですが、そう頻繁にもらえるものでもありませんからね」
「む……それは」
「あっ、じゃあ私、外に出たいです。お城の外に」
「城外に? 取り止めた国内視察に出たいのか?」
「そんなに大それた物じゃなくて、むしろこっそり、出たいです。うん、どうせ引きこもってるんだし、ちょうどいい! お忍びで、ぶらぶらさせてもらえませんか?」
王城の敷地内で狩りをして、騒ぎを起こして反省して以来は自由な行動を謹んでいた。
その後はリュシエンナからのスパルタが続き、今に至っている。
王族にふさわしい行動とは言えない。
けれど、クラウディオの言う通り、アルヴァロにもしものことがあれば大問題になっていただろう。
だから多少、無茶な要求でも今回は飲んでもらえる気がした。
「ぶらぶら……とは、城下を歩いて回るということか」
「お城は何でも揃っていて快適といえば快適なんですが、どうしても息が詰まるんです。勿論、誰の手も煩わせません。サッと抜け出して、人目に付かず帰って来ますから……」
レオノールの読み通り、強い否定はない。
どういう風の吹き回しか分からないが、ここは乗じて畳み掛けるしかない。
城内の見張りくらい、簡単に突破する自信がある。
城下に下りてしまえば、勇者も王太子妃も、顔は大して知れ渡っていない。
似顔絵が掲載された瓦版が出回ったこともあったが、魔王討伐の勇者一行と新しく迎えた王太子妃のどちらも美化されすぎていた。
全くの別人だから誰も気づかないだろう。
男装でもしておけば充分だと思われた。
クラウディオは真剣な表情で思案し、数秒の逡巡の後に答えを出した。
「わかった。いいだろう。……ただし手配は俺のほうで行う。準備が整うまで、勝手な行動は慎むように」
しっかりと釘を刺すクラウディオだったが、許可が出たことでレオノールは踊りだしそうな気持ちでいっぱいになった。
数日後、レオノールは朝から小躍りしながら支度をした。
護衛も侍女も連れず、お忍びでの外出が許可された。
「ん。サイズもぴったり。流石だね」
それでも、レオノール付きのメリッサには全ての事情を伝えてある。
まだ夜も明け切らないうちから、変装の準備をしてもらった。
レオノールは麻製のシャツにベストを合わせている。足元は膝まである編み上げブーツだ。
生成りのズボンにはサッシュベルトを通し、上から一枚、焦茶の大きなマントを羽織ったら完成だ。




