瞬殺 1
ヒュンッと突風が吹き抜けたかと思うと、目の前から忽然と魔獣の姿が消えた。
ドォォオンッ
強い衝撃に、大気が震えた。
それと同時に、右方にあった大木が音を立てて倒れる。
「な……」
クラウディオは驚きに声も出ない。
木が倒れたせいでもうもうと土埃が舞う。
木漏れ日に土埃が散乱して、視界ははっきりしない。
しかし、こちらを庇うように背を向ける人影があった。
その人物は今まさに蹴り出した足を目の高さに振りかざしたまま、倒れた魔獣を威嚇する。
「ちょっとおイタが過ぎたね」
静かながら、凄みのある声が響く。
クラウディオは中腰の姿勢のまま、息も忘れて立ち尽くした。
「ガウゥ……グルルアァァッ!」
魔獣は素早く体勢を立て直し、痛手を負った怒りに任せてこちらへ――、その人物へと飛び掛かる。
逆光だけれど今度は、はっきりと見えた。
木漏れ日に透けた髪は茶を帯びた赤毛だった。
それに裂けてパニエが丸見えになったフューシャピンクのスカート。
左足を軸に取り、右膝を胸に引き付けた足元には茶色いショートブーツを履いている。
誰なのかなんて、わかりきっている。
「誰に手ェ出したと、思ってんだよッ」
レオノールは低く、唸る。
ふっと上体を沈めたかと思うと、足を替え、目にも留まらぬ早業で後ろ回し蹴りを魔獣の左頸部に叩き込んだ。
(けっ……あの魔獣を、蹴った!?)
ブチブチブチッ
何かが捩じ切られるような、不快な音が一面に響く。
ドシィィィン!
巨体が地面に落下する激突音が続いた。
クラウディオは我が目で目撃した状況を俄かに認識できない。
分かってはいても、脳が情報を処理しきれない。
「ガガアッ……」
レオノールの蹴りは魔獣の首をほぼ直角に折り曲げた。
グシャッと鈍い音がして、魔獣の首から赤黒い汁が噴き出す。
首を捻られた魔獣は苦悶の末に絶命した。
静寂の中踵を下ろし、警戒を解くと、レオノールはこちらを振り返る。
フワリと、破れたスカートの隙間でパニエが優雅に踊る。
別れる前と変わらぬ足取りーー半端な早歩きで走り寄ると、ご丁寧に屈んで手を差し出した。
「間に合ってよかった。クラウディオ様、ご無事ですか?」
クラウディオは今この瞬間まで、一部始終に呼吸も忘れて魅入っていた。
掌を向けられても、即時に応答できずレオノールと掌を交互に見つめる。
「大丈夫です。手は使っていないので、汚れてませんから」
レオノールは「ああ」と納得したように掌を握り、また広げて見せた。
本人の宣言通り、黒いレース編みの手袋は汚れていない。
にっこりと、背後に負った日輪のように明るい笑顔で再び手を差し出す。
眩しくて……目眩を起こしそうだ。




