蜂のイタズラ 2
「ええ。ベラスコ家は古くから王家に仕えておりますの。宰相職は父で5代目になりますわ。急にお輿入れなさったお妃様はご存じないかもしれませんけど。ですから私も度々陛下にお城に召される機会がありまして、クラウディオ殿下にも特別に目をかけていただいていたのですよ」
そこまで言われたら、他人の心の機微に疎いレオノールも流石に気がついた。
同時に、リュシエンナに教わった国内の勢力図を思い出す。
「……ああ、そういうことでしたか。カナリーさんはクラウディオ様のお妃候補だったんですよね。私が気に入らないはずだわ」
どこの国にも割とある話だが、エルグランの王家と高位貴族は常に互いを牽制し合う立場にある。
貴族側の筆頭はベラスコ公爵家であって、ベラスコ公爵に与する一派を”ベラスコ派”と呼んでいた。
ベラスコ派は、一丸となり特権階級の独占、維持の姿勢を貫き、排他的な動きを続けている。
実際にここ数代に渡る王妃の座はベラスコ派の家門から輩出されていた。
血統至上主義の嫌いがあり、古い慣習に固執している。
イザベルを除くここ数100年の歴代の王妃は、いずれもベラスコ派の家門の令嬢だった。
そこに一石を投じた出来事が、現国王アルフォンソたっての希望による、イザベルの嫁入りだ。
イザベルの生家、ロニオンソ家は歴史ある名門でありながら、これまで政権からは一歩引いた位置にあった。
イザベルは常日頃から民からの信頼こそが国の根幹だと説く親民派で、際立った活動のない公爵であったが、おそらく胸の内には同様の思いがあるのだろうと考えられる。
そんな王妃だからこそ、レオノールの嫁入りへ惜しまず協力してくれた。
しかし、ベラスコ派からすれば厄介極まりない王妃なのだ……とリュシエンナから聞かされている。
ベラスコ派は次代の王太子妃には何としても、ベラスコ派の令嬢をと躍起になっていたらしい。
頭の中で情報が一致し、思わず本音が口を突いた。
するとカナリーは瞬時に気色ばんだ。
「まあっ、それはどういう意味ですか?」
「どういうも何も、そのままです。貴女がずっと不満げに私を見ているのはわかっていましたから。理由がわかって納得しただけですよ」
思ったままを口に出してしまったが、間違ってはいないし、問題はないだろう。
それにレオノールは元から、遠回しなやり方は苦手だ。
「随分な物言いをなさるのですね。いくら王太子妃殿下とはいえ、言葉にはお気をつけくださいませ」
「言葉に気をつけろって? それこそどういう意味なのかな。偉そうにするのは性に合わないけど、仕方ないのよ。私のほうが立場が上なんだから」
事実を突きつけただけなのに、カナリーは真っ赤になって扇を握り締めた。
しかも拳は震えている。
よっぽど癇に障ったらしい。
レオノールにしてみれば、事実を述べただけで悪気はない。
けれど一触即発といった雰囲気に、周囲の令嬢たちは色を失った。
礼儀を失しているのはカナリーだ。
けれど、令嬢たちはカナリーがクラウディオの婚約者候補の筆頭で、彼にひどく執心だった過去も知っている。
気位の高いカナリーが腹に据えかね、レオノールに嫌がらせを試みていたことも。




