レオノールのおもてなし 1
「私ですか? ええ、強いですよ。とても」
突然の質問に、切り替えが追いつかなかったのか、素顔が垣間見える。
レオノールは忖度せず、さらりと答えた。
意図を介さない素朴な表情に、クラウディオは何故かホッと安堵を覚えた。
(……?)
何故、安堵したのだろう。
「そうでしょうとも。ですが、そのように強気な発言をされると、酔わせてみたくなりますな」
アルヴァロはにっこりと笑い、給仕に合図をする。
「どうです、私と勝負してくださいませんか」
「酒の強さを競うのですか? アルヴァロ王子と私が?」
「いえ、もちろんクラウディオ殿下と3人でです」
ワインのボトルをいくつも運ばせて、それらをテーブルに並べる。
更に新たなグラスを3つ、受け取るとレオノール、クラウディオの眼前にトントンとテンポよく置いた。
レオノールはそのグラスを不思議そうに眺めたあと、クラウディオに目を移す。
荒唐無稽な提案だ。
いくら屈強たる冒険者であっても、レオノールは妃。
女を相手に酒を強要しようなど、いささか品位に欠けるのではなかろうか。
「そのような戯れを仰るとは。ノーキエの王子はユーモアのセンスもお持ちのようだ」
「戯れではありませんよ。私はぜひ、王太子妃のお強いところを見たいのです。まさか、剣を交えるわけにはいかないでしょう」
アルヴァロはにこやかに笑みを浮かべたまま、自ら注ごうとボトルを取り上げた。
だが、栓がされたままなので一旦給仕を振り仰ぐ。
「で、あったとしても、飲み比べは私と2人でして頂きましょう」
明日は早朝より狩猟会が予定されているし、賓客に恥をかかせるわけにもいかない。
時機を見てこちらが降参するしかあるまい。
「レオノールはーー」
私の妻ですから。
そう断ろうとしたところを、レオノールが押しとどめた。
「アルヴァロ王子。お酒を酌み交わすのも愉しいですが……せっかくの宴です。競い合いなどせずに楽しく飲みましょう。ね」
アルヴァロが渡したボトルを給仕からにこやかに取り上げて、クラウディオにウインクする。
「おもてなしのために、余興を一つ、私からお披露目いたしますから」
「妃殿下が、余興を!?」
唐突な提案にアルヴァロとクラウディオは呆気に取られた。
その間にレオノールは悠々と立ち上がり、壁際に控える護衛の兵士に近寄った。
「ねえ貴方、先ほどアルヴァロ王子から頂いた剣を持って来てちょうだい。……え? できない? 大丈夫よ、あれは模造刀で人を傷つけたりできないから」
意図がさっぱり見えないが、レオノールが所望したのは先ほど献上されたばかりの、ノーキエの宝剣だった。
一介の騎士の権限で運び出せるわけがない。
声をかけられた護衛が、物凄い勢いで首を左右に振る。
レオノールは諦めきれない様子で他の騎士に視線を向けたが、誰も了承しない。当然だ。
「せっかくだから、ノーキエからいただいた剣でお見せしたかったんですけど。では、王子の羽飾りをお借りしても?」
肩を落としつつ戻ってきても、諦めた様子はない。
今度はアルヴァロが衣装にあしらった羽飾りを欲しがる始末。
一体何を始めるつもりなのだろう。




