妻の行動 1
「ああ殿下。ちょうど良いところに。ご覧の通り調理の最中です。もうすぐ焼けますよ」
背後から複数の兵とクラウディオが殺到したのに、レオノールはまったく驚いた様子もなく振り返った。
「焼き具合など尋ねていない。どうして勝手に狩りなど、ここは王城の敷地だぞ!? 衛兵が不審火と勘違いして大騒ぎしている。それに、何だっ、その服装は! またしても頓狂な格好をして!」
駆けつけた時には気づかなくても、追求すればするほど現場が目に入る。
問いただすほどに疑問が次から次へと湧いてきて、収拾がつかない。
「ええと……まず狩りに出た理由ですが、朝食が私には少なく感じられて。自力で調達したんです。流石は王城、肥えた獲物がゴロゴロしてますね」
吊るされた獲物は二兎。
確かにふっくらと身の肥えた兎を仕留めたようだ。
「もちろん、今、全部食べるつもりはありませんよ。一兎は夜食にしようと思ってました。けど、せっかくクラウディオ様がいらっしゃったのですから振る舞います。分け合えば皆んなで食べられますよ」
レオノールは全く悪びれていない。着目すべきはそこでないのに、仕留めた獲物の数を気にしている。
「服は、私に合うサイズのものが他にないと言われたので。自分でもピンクはちょっと、と思ったんですが。クラウディオ様に言われると、流石に恥ずかしいですね。ごめんなさい」
レオノールはスッと立ち上がると、素直に頭を下げた。
論点が、とんでもない泥沼に嵌って見えなくなりそうだ。
それにこの、こめかみがヒクヒクと疼くような感覚が頭痛に至りそうでもある。
部下が居並ぶ前で取り乱したくはない。
クラウディオは懸命に、レオノールの言動を読み解こうと試みた。
「朝食がーー足りないと。充分な量を提供しているはずだが、ならば今後は増量するよう指示しておく。第一、腹が減ったくらいで勝手な狩猟をしてはならない」
改めて明言する内容でない。
どうしてこんな台詞を、自身の妻に。
王太子妃たる人物に言い聞かせなければならないのか。
教わらずとも分かりそうなものなのに。本当にこの女は常識がないのか?
それとも敢えて挑発しているのか?
「それにお前の召物は恐れ多くも皇后陛下が手配してくださった。手抜かりがあるはずがない。するならもっとマシな言い訳をするんだな」
努めて冷静に諭すと、レオノールは不貞腐れたように唇を尖らせた。
「私の主張は、取り合ってくれないんですね。まあ、内容は、承りました」
反省しているようには見られない反応だ。
「まあ、ではないだろう。理解したのか? 俺が言ったことを」
「狩りは勝手には致しません。でもですね、”くらい”と仰いましたが、空腹は私にとって大問題なんです。用意していただいてる身でおこがましいと思ったから自分で何とかしようとしたんです。他のことはなるべく波風立てぬように動きますけど、こればかりは解決しなければクラウディオ様に直談判に伺いますよ? それだけはお許しくださいね」
(俺に直談判だと!?)
この状況においては冗談にしか思えない言い回しだが、彼女の表情からは、それが本気であると窺い知れた。




