可愛い悪戯 5
「お部屋までご案内します……!」
シャヘルが慌てて先導に立つ。
(クラウディオ様がいなきゃ、きっと昼も夜もこの調子よね。他はどうとでもなるけどご飯だけは……!)
昨晩は食卓こそ別々だったが、隣室にクラウディオがいたためか、部屋に運ばれた食事は満足いくものだった。
食事は健康の源だ。
もし、午後までこの調子ではさすがに動けない。
そう考えたレオノールは、ひとまず朝食を終えてすぐ、自室に籠っているふりをした。
あのひどい身なりでは、そうそう城内をうろつけまい。
そう思われているだろう油断を逆手に、棟の裏手からこっそりと外へ抜け出した。
***
昼近く。
主塔の執務室で書状に目を通していたクラウディオの元へ、警備兵が駆け込んできた。
「殿下、大変です!」
「騒がしい。何事だ」
机に肘をついたまま、目だけで兵を射すくめると、男は息を整えつつ答えた。
「西壁寄りの林にて、煙が上がっております。最初は不審火かと見回りを出したのですが……」
「不審者を捕えたのか。では尋問官にーー」
報告を耳に留めながら、引き続き書状に目を走らせる。
ここ数年、王城へ侵入する不届者はいなかった。
捕えたなら、投獄し、尋問する決まりになっている。
クラウディオはそこで指示を終えたつもりだったが、警備兵は遠慮がちに食い下がる。
「いえ……その……、不審火ではなく、焚き火のようです」
「《《ようです》》? 的を得ない発言だ」
午前中に片付けてしまいたい案件は他にもある。
中断させられた苛立ちが、表情に現れていた。
「事実確認くらい、どうして」
「た、焚き火をしていたのは、妃殿下なのです。それも、野兎を狩って、召し上がるつもりのようで……」
沈黙。
クラウディオの手が、無言で書状を置いた。
「済まない。認識が足りないのは俺のほうだった」
次の瞬間には椅子を引き、黒い外套を羽織って立ち上がっていた。
「現場に向かう。案内しろ」
***
足早に西壁の裏手へ向かうと――自然のままになっている林の中に、一筋の煙が上がっている。
木立の間を抜けていくと、小さな空き地の中心に、焚き火と……赤髪の女の姿がある。
焚き火の上には複雑に組まれた木材を設置し、吊るされた獣肉が香ばしく焼かれている。
ここが王城の敷地内でなければ、牧歌的な、一般の光景だったろう。
それに、火の番をしている女が、王太子妃でなかったならば。
「いったい何をしているんだ、お前は!?」
感情をむき出してはいけないと戒めたばかりなのに、クラウディオはもう叫んでいた。
レオノールが視界に入っただけで、全身の毛が逆立つ。




