王都直前 4
アルヴァロの腕を斬り落とす勢いで腰の剣を振り抜いた。
「チィッ」
鋭い舌打ちとともに、アルヴァロは飛び退く。
反作用で乗っていた馬は大きく跳ね上がり、レオノールは落馬寸前のところでなんとか耐えた。
「この程度では効かないか。……流石だな、やはり其方こそ我が妻にふさわしい」
「気持ち悪い攻撃……。どっかおかしいと思ってたのよ」
レオノールはこめかみから流れた冷や汗を手の甲で拭ってから、ひらりと鞍から飛び降りた。
「しかし加減を違えて、其方が木偶となっては困る。難しいものだな」
舌打ちをしたくせに、アルヴァロは愉快そうに笑って、手を目の前にかざす。
自分の手のひらを裏返してしげしげと眺める。
目を離さぬまま剣を構え直し、レオノールは自身を侵食しようとする黒靄を観察した。
鏡でアルヴァロと対峙した時から、違和感はあった。
「やっぱりアンタはアルヴァロじゃないね?」
「……アルヴァロだと言ったはずだが」
「ああ、ごめん。正確に言わないとダメか。アンタの中身はアルヴァロじゃないって意味よ。言葉の扱いに慣れてないんだもんね?」
レオノールが嫌味を投げかけると、アルヴァロはピクリと頬を動かした。
「ククッ……フフフフフ、ハハハッ! 嬉しいぞ、レオノール! そこまで気づいてくれるとはな」
嬉しそうに目を細めたのは、ほんの一瞬だ。
目の瞳孔がギュンと縦に伸びて、禍々しい紅に染まる。
「アルヴァロ王子の身体を奪ったな!」
レオノールが恫喝すると、アルヴァロの瞳がカッと見開かれ表情が消え去る。
だが口角だけは釣り上がり、不自然な笑みを作った。
「ーー竜魔王、オーグレイル!!」
レオノールは宿敵の名を叫んだ。
オーグレイルは2年前、およそ2ヶ月に渡る死闘の末、勇者パーティが滅ぼした魔王の名だ。
レオノールが最後の一太刀を浴びせ、確かに討ち果たした。
遺骸も騎士団一行が検め、地中深くに埋葬したはずだった。
アルヴァロの笑い声は、ますます大きくなる。
不気味に捻れて、辺り一面に響き渡った。
「生きていたのか!? どうやって王子の身体を……!」
闇と魔を従え、人の心さえ浸食する強い感応を持つ闇の魔王。
アルヴァロの中身が魔王オーグレイルならば、すべての事象に納得がいく。
「其方に葬られてからの話か……。話せば長くなる、我が城でゆるりと語り合おう」
アルヴァロの形をしたオーグレイルは、サッと片手を振った。
途端にズンッと、地が揺らぎ、草原がめこめこと盛り上がる。
地の底から、大量の魔物の気配が迫り上がって、大気が震えた。
「其方を妻にした後でな」
その言葉が合図だったかのように、大きな揺れがレオノールを襲う。
足元の地面に亀裂が走り、オーグレイルの立つ地面は隆起し、レオノールの足場は陥没した。
落下を避けるために大きく跳躍し、崩れた土を飛び移る。
気づいたときには巨躯の魔物の群れに四方を囲まれていた。




