ノーキエの地下洞窟 / エルネスト視点 5
「どうだ。……素晴らしいな、流石は勇者レオノール! 我が僕が束になっても敵わぬ。やはり彼女は特別だ」
姿は消えているが、アルヴァロの声はそこにあった。
一人で悦に入ったようにしみじみと呟く。
「レオノール様だ! 魔物と戦っているぞ……!」
「これは、どういうことだ? 何故レオノール様があのような場所に!?」
憔悴しきった騎士たちの顔が、俄かに気色ばんだ。
「其方らを救うため、今まさにこの地に向かっている。3日以内にその身を差し出せば、其方らを解放すると約束した」
「まさか、たった3日でノーキエへ!? そんな無茶な」
「無茶なものか。現に彼女はとうに国境を越えた。3日でも猶予を与え過ぎたようだな。まさか不眠不休でここまでやるとは」
エルネストの問いかけに、アルヴァロは声だけで愉快そうに笑った。
「レオノール様を誘き寄せて……何が目的だ?」
レオノールの勇姿に思わず心が湧き立って、エルネストは拳を石壁に叩きつけた。
レオノールなら、この窮状を打破してくれるかもしれない。
そう期待を抱くくらい、馬上のレオノールは圧倒的な戦闘力を誇っている。
しかし、その表情は決して明るくない。
時々大写しになる額には玉のような汗が浮かび、きつく結ばれた口元からは疲労のほどが窺える。
アルヴァロの言葉を信じるなら、レオノールはエルグランからノーキエへ向かって3日間、休まず、眠らずに進行している。
常人には到底、真似ができない荒技をやってのけている。
いかにレオノールが強靭な肉体を持っているにしても、女性一人に背負わせて良い荷の重量ではない。
「彼女を頂くのだ。文字通りな。心配は要らぬ、約束は守る。其方らはほどなく解放されるだろう……そろそろ頃合いかな」
ククッと、漏れた冷笑が遠ざかる気配を感じて、エルネストは追い縋る。
「止めろ! そのような犠牲は誰も望んでいない! 今すぐ、この場で我々を殺せ……!?」
声が枯れるほど叫ぶと、全身が燃えるように熱くなった。
肺の中を焼いたような火照りが喉を焼き、咽せて蹲る。
「ゲホッ……ゴホッ……ゴホ……」
「エルネスト様!」
「副団長! どうしました!?」
身体のどこにも力が入らず、エルネストはその場に頽れながら、震える己の指先を見つめた。
心配そうに駆け寄るエヴァの声が聞こえる。
「手を焼かせるな。他の者どもも妙な気は起こすでないぞ。貴様らを生きたまま昏倒させるくらいわけはないが、彼女を迎えに行く前に余計な労力は使いたくない。それに、お前たちエルグランの騎士には王太子妃の未来を報告してもらわねば。あの澄ました王子がどのような反応をするか、見ものだな?」
石牢の中に張り詰めた空気が充満し、ごくりと唾を飲む音が重く沈む。
黒い霧はいつの間にか霧散し、レオノールの映し絵も消えていた。
(く……そう、目が)
「副団長、しっかりしてください」
エルネストは忌々しげに目を擦ったが、視界は戻らない。
アルヴァロが立ち去ったかもわからないまま、エルネストの意識もまた闇に沈んだ。




