ノーキエの地下洞窟 / エルネスト視点 2
ーー魔物を操る。
従来その能力は、魔物と契約を交わした者にしか許されない。
契約には生き物の贄を要する、忌むべき魔法とされてきた。
それに、騎士たちが大人しく魔物に囚われるわけがない。
あちこちで戦闘が始まり、血が流れると、愕然としていたノーキエ人の中からも非難の声が上がった。
「何をなさっているのです!? 貴方は本当に、アルヴァロ王子なのですか」
ノーキエとエルグランでは信仰する神は異なれど、ノーキエ人は信仰心が厚いと有名だ。
魔を従えるアルヴァロは、異形の怪物に見えたのだろう。
「そうだとも。他に誰に見える?」
アルヴァロは気に留める様子もない。
ニヤリと口元を歪めて右手をかざすと、指の先から炎が竜巻のように立ち昇る。
それがクルクルと渦を巻いて、蛇のように姿を変え、一番大きな声を発した男性の周辺を這い回る。
炎の描く円の軌道は徐々に狭まり、ゆらりと鎌首をもたげると途端に蛇は顎門を大きく開く。
「なっ、何を……やめ、やめてください」
「私は紛れもなくアルヴァロだ。だがこの身は万能となった。わかるであろう」
恐怖で足がすくみ、男は動けない。まさに蛇に睨まれた蛙だ。
戦慄く口を閉じることもできないまま、コクコクと頷いた。
だが。
パチン
アルヴァロが指を鳴らすと、その瞬間に炎は男を飲み込んだ。
ジュゥッ、と肉の焼かれる音、肉の臭いが漂い、恐怖に我を忘れていた者さえ茫然自失となり立ち尽くした。
アルヴァロは空気の読めないきらいがあったが、身分を問わず交流し、家臣に慕われる朗らかな王子だった。
今焼かれた男とも、昨日は気さくに言葉を交わす姿を目撃したばかりだった。
エルネストでさえ目を疑う豹変ぶりだ。
「恐れるな。大人しく従えば、悪いようにはせぬ。これより我らは、エルグランより《《捕虜》》を連れノーキエへ帰還する。ただ従えば良いのだ」
抗えばどうなるかをまざまざと見せつけられて、使節団員たちは声を失った。
しかし騎士団に、脅しに屈する騎士はいない。
「我々を虜囚にするだと? そのような世迷いごとが通ると思うか! 生き恥を晒すくらいなら……」
「おっと。そう、いきり立つな。エルネスト副団長。虜囚と言えど、私にとっては大切な客人だ。従ってさえおれば命は保証する。しかし無闇に逆らえば……お前たちだけではない。誰が犠牲になるか知れぬぞ」
”誰が”とは、非戦闘者たちを指すのだとわかり、エルネストは息を呑む。
アルヴァロの態度は卑劣そのものだった。




