ノーキエの地下洞窟 / エルネスト視点 1
エルネストはアルヴァロの身辺に異変があった場合、真っ先に護衛として対応できる位置に控えていた。
異変に気づいたのは、地面の隆起が発生してからだ。
大地の振動に、隊列が乱れた。
散り散りに逃れようとする一行をどう保護するべきか。
逡巡する間もない。
アルヴァロは恍惚とその亀裂の底に魅入ったかと思うと地を蹴り、その身を投じていた。
あっという間の出来事だった。
アルヴァロを飲み込むやいなや、地の底から眩い閃光が走り視界を覆う。
大地の鳴動は一層激しくなり、誰もが前後不覚に陥った。
やがて光が収まり、周囲の様子が見渡せるようになった頃には、周囲を夥しい数の魔物に囲まれていた。
アルヴァロを含めて使節団員、全員の安否も確認できない。
絶望的な状況の中でも、エルネストは生存の活路を見出すため果敢に立ち上がった。
だが……彼を待ち受けていた運命は、魔物に屠られるよりずっと過酷なものとなった。
「副団長……生きてますか」
「当たり前だ。これしきで死んでいられるか」
呻き声と共に呼び掛けられ、長い回想が打ち切られる。
エルネストは閉じていた瞼を開けた。
話しかけてくれたのは、言葉を交わした記憶もない、若い部下だった。
彼は右脚を折り、骨折をした部分が腫れあがっていた。
添木をしてやりたくても、手頃な物が何もない。
武器になりそうなものは全て取り上げられたーーノーキエの第二王子にして全ての元凶である、アルヴァロ・イヴァニエスに。
「まったく、何を考えているんでしょうね。あのイカれ野郎は」
若い部下が乾いた唇を舐めて、苦々しげに呟く。
彼らが囚われているのは地下をくり抜いたような洞窟だった。
奥まで行けば行き止まりで、一箇所だけに柵がある。
放り込まれた21人の団員たちが、憔悴しきった様子であちこちに腰を下ろしている。
壁沿いには一定間隔で篝火が焚かれているため、真っ暗というわけではない。
炎が消える様子もないので、わずかだとしても外気の通り道もあるようだ。
「俺たちエルグランの騎士団はおろか、身内にまで手を出すなんて」
「さあな。狂人の考えることなど、知りたくもない」
エルネストは吐き捨てる。
騎士団は貴人警備の近衛兵とは違う。
国内外である程度の経験を積んだエルネストでも、アルヴァロの行動を振り返るだけで吐き気がする。
アルヴァロは閃光の中から帰還して、周囲にごまんと湧いた魔物を操った。
落下を免れたエルグラン王国の騎士たちを捕獲し、生き残りの使節団員に帰国を促した。




