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第37話:規約402条:秩序とノイズの鏡面反射

銀色の杭が、仮想空間の地面を割って俺の足元まで迫る。

 一撃でも触れれば、俺の脳は『MASTIFF』に同期され、肥料(演算資源)として一生、国家のサーバーを回すだけの部品にされる。


「……ツカサ! 杭が来るわ! ……左に0.05秒! ……私の心臓に合わせて跳んで!」


背中にしがみつくカレンの声が、HUD経由で脳を叩く。

 ドクン、ドクン、と。

 恐怖で跳ね上がる彼女の心拍が、メトロノームのように俺の指先に正確なリズムを刻ませる。


「……遠藤! 規約402条(0.01秒の例外)は、システムの『遊び』じゃない。……それは、お前たちが『完璧』になれないことの証明だ!」


俺は杭がアバターを貫く瞬間に、キーボードの『Esc』と『特定キー』を、カレンの心拍が跳ねる瞬間に合わせて同時入力した。


【スキル名:規約402条:鏡面反射(Mirror Logic:Reflective Reflection)】

効果:運営からの「管理者権限パッチ(攻撃)」を受ける直前の0.01秒間、自身の受領ログを意図的に「未完(Pending)」に固定し、攻撃判定をそのまま送り主(管理者)へ送り返す。

取得条件:管理者権限アバターとの直接戦闘において、0.01秒の入力を連続10回成功させる。

成長条件:反射させた攻撃によって、管理者の「公式署名サイン」を一時的に破損させる。

代償:

 身体:心拍数の一致による「共感疲労」。カレンが感じている恐怖がそのままツカサの神経を焼く。

 機材:マザーボードが過電流で火花を散らすリスク。

 社会:運営への「直接的な反撃」として、即座に修正パッチ(Hotfix)の対象となる。


キィィィィィィィン、と鼓膜を劈く電子音が響いた。

 俺を貫くはずだった銀色の杭が、鏡に当たったように反転し、遠藤の官僚服を掠めて弾け飛ぶ。


「……なっ!? ……ログの『保留(Pending)』だと……? ……そんな姑息な真似を……!」


「……姑息だろうがなんだろうが、……俺は死ぬまで『保留』を続ける。……お前たちの正義が、俺の死を確定させるその瞬間までな!」


だが、俺の視界は真っ赤だ。鼻から垂れる血が、カレンの手にかかる。

 代償の「共感疲労」。カレンの心臓が壊れそうなほど震えているのが、俺の脳を直接締め付けていた。


『……司、……今だ。……遠藤の権限が、……反射で揺らいだ。……アクセスキーを……食べる』


九条が、俺の制止を無視して「白い影」となって遠藤へ肉薄した。

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