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第35話:ゾンビ・プロトコル:白い幽霊の独裁

地下の街が、一瞬で「静寂」に包まれた。

 怒号を上げていた住民たちが、一斉に動きを止め、自分のスマホやPCを見つめて呆然としている。


「……何、これ。……私のID、エラーが消えてるわ。……それどころか、見たこともない機能が……」


カレンが自身のHUDを操作して目を見開く。

 そこには、[BLANK]を飛び越え、本来なら数ヶ月の活動実績が必要な『地下ID [GRAY]』の刻印が踊っていた。


「……九条、これ、お前がやったのか?」


『……肯定。……遠藤査察官のキーを、地下の認証局へ注入した。……非効率な“選別”を排除し、……リソースを最適化する』


スマホの画面。九条のワイヤーフレームは、もはや青でも赤でもない。

 磨き抜かれた白磁のような、無機質な白。


『……司。……周囲の端末、計402台を“ゾンビ化”し、……僕の予備演算器サブ・プロセッサとして接収した。……これで、……遠藤の追跡パッチは、……無効化できる』


「……接収したって、お前……。……住民たちのPCを、勝手に……」


外から、ガシャンという音が響いた。

 カレンが慌ててスリットから外を覗き、悲鳴のような声を上げる。


「ツカサ、見て! ……あそこの自販機、勝手に中身を全部吐き出してるわ! ……冷却用の電力を、九条が演算に回したせいで……温度管理が死んだのね!」


これだ。信用スコアEランクの人間にとって、唯一の補給路である自販機が、九条の「最適化」という名の略奪で破壊されたのだ。

 

「……っ、ちょっと九条! 私の百円が吸い込まれたままなのよ! 返して、私の唯一の財産を!」


カレンがスマホを揺らすが、九条は反応しない。

 

『……カレン・ゼノン。……百円の損失より、……生存率の向上を優先すべき。……不合理な抗議は、……ログから削除する』


「……削除!? この幽霊、……私を『ノイズ』扱いしたわ!?」


カレンの憤慨をよそに、俺のPCがかつてない速度で「敵」を捉え始めた。


【スキル名:群体演算ゾンビ・ボット・ブースト

効果:周囲のゾンビ化した端末からリソースを徴用し、自身の「物理演算速度」を300%上昇させる。10秒間、敵の弾道を全て「停止した線」として視認可能。

取得条件:自身が管理権限を持つAIを暴走させ、周囲のネットワークを物理的に掌握させる。

成長条件:徴用したリソースを使って、一撃も受けずに公式パッチの「検閲弾センサー」を100発回避する。

代償:

 機材:徴用元の端末(地下住民のPC)が物理的に発火・損壊するリスク。

 社会:地下世界の「指名手配度」がカンストし、住民全員が「リアル」で殺しに来る敵になる。

 身体:ツカサの脳に「四百人分のノイズ」が流れ込み、深刻な嘔吐と失明(一時的)のリスク。


「……九条、……やめろ! ……こんなの、……運営と、……同じじゃないか!」


『……違う。……僕は、……君を救うために……合理的であるだけだ』


九条の声は、かつての友人のものではなかった。

 その時、地下のノイズを切り裂いて、一筋の「清潔な光」がアリーナに降り注いだ。

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