サンドイッチと嵐の予感 1
眠れない夜を過ごしても、まぶしい朝はくる。
窓から差し込む朝日が、高いことに気がついた私は、ベッドから飛び起きた。
「うそっ! もうこんな時間!?」
急がないと開店準備が間に合わないかもしれない!
いつも私は、始業時間より少し早めにお店に入る。
制服に着替えるのも時間がかかるし、お客様に喜んでもらえるように準備も完璧にしたい。
時計はすでに、家をでなくてはいけない時間を指し示していた。
私は、髪の毛を簡単に結ぶと、準備もそこそこに部屋を飛び出す。
はやる気持ちで、お店の裏口を開けて、今日のテーマを確認する。
――――ローズピンク、異国の神殿。
裾の長い白いドレスは、ドレープがたくさんある、ストンとしたデザインだ。
袖もひらひらとドレープを描いている。
「こ……これは、すごいわ!」
毎日変わるテーマ。
オーナーは、お仕事で世界中を飛び回る魔術師様だ。
王国の外に実際に存在する景色や建物、小物を元に創りあげられているらしい。
お店の中は、不思議なくらい天井が高い。
中心はドームになっていて、全体がローズピンクに彩られている。
魔法でそう見せているだけだから、実際はお店の大きさに合わせて、ある一定の距離以上は進めないようになっているけれど、とても広い。
「わぁ……」
柱に触ってみれば、石のヒンヤリした感触まで再現されていた。
塗装していない……。ローズピンクの石を使っているのね。
こんな美しい建物が、王国の外に本当に存在するなんて。
「美しいな」
「はい。本当に……」
後ろからかけられた言葉に驚いて振り向く。
そこには、目の下に隈があり、疲労をにじませる騎士団長様がいらっしゃった。
「わ! 申し訳ありません。いらっしゃいませ」
「……ああ」
微笑んだ騎士団長様。
昨日お会いして以来だけれど、やっぱりお疲れのようだ。
試合の後も、お仕事があるみたいだったもの。
――――それにしても、いつも店内の装飾にはしゃいでいるところを見られてしまって、恥ずかしいわ。
「こちらの席にどうぞ」
騎士団長様の指定席は、お店の端、窓のない外からは見えづらい席だ。
石で作られたテーブルと椅子は、お店と一緒でローズピンク色をしている。
「コーヒーと、そうだな? 軽く何か食べたい」
「…………では、サンドイッチなどいかがでしょうか?」
「それを貰おうか」
カフェフローラのサンドイッチには、妖精が蜜を取り出す花が、隠し味として添えられている。
蜜を取り出された後は、ほんの少しピリリと辛い花。
いつもコーヒーだけ飲んで帰る騎士団長様が、食事をするなんて珍しい。
「コーヒーは、いつお持ちしますか?」
「先に貰えるかな。……失礼」
騎士団長様は、やっぱりお疲れみたいで、小さなあくびをかみ殺した。
それを見た私は、急いでコーヒーを淹れて、そっとテーブルに置く。
一口それを飲んで、口元を緩めた騎士団長様は、やっぱり昨日の凜々しくてカッコいい騎士団長様とは、どこか違う気がするのだった。




