サンドイッチと嵐の予感 2
「そういえば、騎士団長様」
「……なんだ、リティリア嬢?」
サンドイッチをお届けして、銀色の薔薇についての話を切り出そうとした私。
このお店のサンドイッチは、具材と一緒に花が挟んであるから、色とりどりで美しい。
けれど、女性のお客様が多いから、小さく切られている。
騎士団長様が大きな手で摘まんだサンドイッチは、いつも以上に小さく見える。
「足りますか?」
聞きたかったのは、そんなことではない。
でも、銀の薔薇をお返しします、と伝える勇気が足りなかったのと、あまりにサンドイッチが小さく見えてしまったせいで、口から出たのはその一言だった。
パクリとやっぱり一口で食べたサンドイッチを咀嚼して飲み込むと、ほんの少し騎士団長様は考えるそぶりを見せる。
それから、私の方を見つめて、なぜか困ったように微笑んだ。
「……まあ、普段から朝はほとんどコーヒーだけだ。足りるだろう」
「えっ。激務なのに、体が持ちませんよ!?」
「――――それはそうだが」
私が気にすることではないのかもしれない。
でも……。いや、どうやってこの体を維持しているのだろう。
長身で肩幅が広く、一目で鍛えられていると分かる騎士団長様は、たくさん召し上がりそうなのに。
たくさんお肉を食べなくては、こんな体格、とても維持できそうにないのに。
「とくに最近は、朝から忙しいからな」
そんな忙しい中、ここに来てくれていたのだろうか。
なぜか申し訳なく思って、私は一つの決意を口にする。
「……せめて、ここに来たときは、何か食事をしてください。薔薇をいただいたお礼に、私が毎回おごります!」
カフェフローラの客層は、裕福な婦人や令嬢、時に貴族だ。
結構お高いけれど、そこは従業員限定の割引券を使わせて貰おう……。
もちろん、こんなことで、あの精巧な細工の薔薇に釣り合うとは思えないけれど。
「――――気持ちはうれしいが、リティリア嬢におごられるわけにいくまい。これでも、騎士団長だ。毎日この店で食べても、問題はない」
「でも、おごります!」
「……そうか。では、その礼については、改めて考えておこう」
お礼をしたら、そのお礼が何倍にもなって返ってくる。
そんなループに陥っている気がするのだけれど……。
その時、お客様が来たベルの音がした。
……そうよね。仕事中にしていい話題でもないわ。
「失礼します」
「……ああ。ところで、俺の体を心配してくれて、うれしかった」
「っ!? ご、ごゆっくり!」
赤くなってしまった頬を隠したくて、俯きながら、足早に席を離れて、お客様を出迎えに行く。
けれど、私は、いらっしゃいませ、という言葉を告げる前に、その場から凍り付いたように動けなくなった。
「――――探した。リティリア」
私を見つめて微笑んだ、金髪碧眼のお客様は、よく知っている人だった。
というより、二度と会いたくない人……。
「ギリアム様……」
目の前には、三年前、男爵領が落ちぶれた途端、友人だと思っていた令嬢を連れて、私に婚約破棄を告げた元婚約者ギリアム・ウィアー子爵令息がいた。
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