それぞれの『常識』1
「うーん、魚介だとなあ……魚も赤身か白身かわからないし」
スーパーで悩みながら棚を見ていく。
「あ、バジルは買ってみよう。……アボガドと……生姜に大蒜」
リンティスにもらったスキルがしみじみありがたく思えるのはこうして買い物しているときかもしれない。ずらりと並んだ商品のうち、特に農産物海産物など個々に差が発生するものに関してはどれが『良い』かわかるようになった。林檎や苺の甘いもの、キャベツやほうれん草、その他の野菜だけでなく肉や魚などの美味しいものが選べると出来る料理も美味しくなる。
スキルが進化したら品物を直接目で見なくとも判断できるようになる、と言うのでその日が来たら通販でも良い品を選べるようになると楽しみにしているのだ。
「しかし何を捕ってきてくれるやら」
海には、食用の魚の他に貝類や海水性の軟体動物・甲殻類などがいるという。もちろんそれ等にも食用に出来るものはいる、というか食べられていないが結構多いらしい。その辺りはリンティス情報だ。
「楽しみだなあ」
「うおりゃあ~!」
気合一発、水面高く引き上げられたのは子どもの身長ほども体長がある魚だった。胴の中程に深々と打ち込まれた銛から逃れようとびちびち暴れているが、それだけの力は既に無いだろう。
「……すごいわねー」
リアンナの呟きは呆れと言うか感心というか、微妙なところだった。実際、他の同行者も大暴れするカークスを同様に眺めている。
「彼は、実力的にはCクラス、或いはそれ以上だからね」
フレディは苦笑交じりでそれを見守っている。
彼もCクラスの冒険者である。Cクラス、ということは冒険者としては新人を脱して中堅に入ったと見做されるが、その年齢としては早すぎるくらいだ。
しかし冒険者ではない(ことになっている)カークスはそのフレディより明らかに実力がある。言ってしまえば、辺境で開拓をしているだけの人物ではないのだ。
カークスも、リアンナやフレディと同じく、この国の人間ではない。しかしそうした者達の多くがそうであるように、彼も出自を語らない。
「リン-!捕ってきたわよ!」
呼び掛けの声に鈴は店の入口からひょこっと顔を覗かせた。こちらを伺っているリアンナはともかく、フレディやカークス達はずいぶん大荷物だしスーまでかなりの荷物を抱えていた。
「戻ったわよ、リン」
「おかえりなさい。収穫は……ずいぶん多いですね」
おそるおそる外へ足を踏み出す。実は鈴がこちらの世界で店を出るのは、これが初めてだ。さすがにちょっとどきどきしている。
リンティスが言うには、店の敷地内は彼の加護が効いており彼女を傷つけることは不可能だとか。しかしそうは言われてもなかなか鵜呑みに出来ないのも事実。
「何が食べられるかわからないんですもの。色々採ってきたから確認してちょうだい」
にっこり笑み掛けるリアンナに苦笑して鈴は入口から一歩だけ踏み出した。すぐそこに、獲物を広げようとする彼等を制してビニールシートを広げ、とりあえずその上に乗るだけ出してくれ、と頼む。
「とりあえず適当に取っ捕まえてきたぞ」
収納の魔法をかけたという荷物からどさどさ並べられたのは、磯の香りも鮮烈な魚介類。さすがに生きてはいないが新鮮そのもので、魔法ってすごいと鈴は感心しきりだ。
一際大きな、人間のこどもほどある魚はぱっと見では鮪に似ていた。しかし『鑑定』では、『オオシマブリモドキ:海水性の魔物。普段の棲息域はある程度深い海中だが、ヒトや獣を捕食するため海岸に現れることもある。魔物だが食用可。白身ながら脂がのって美味』ときた。他にも『ランディアシーサーペント:小型の海蛇。食用可。小骨が多いが良い出汁が出る。生食不可』とか『シビレイワシ:群で行動する。食用、美味。ただし内臓に特殊な麻痺毒を出す腺があるため注意』とか諸々。
「魚の他に、貝とか拾ってきたんだけど食べられるかしら」
続いて並べられたのは、蛤より更に大きく色鮮やかな貝や、刺々しい殻を纏った蟹や海老らしきもの。毒があって調理に注意を要するものが多いようだが、殆どは食べられるようだ。
「すごい、大漁ですね。……えーと、これまとめての支払いで大丈夫ですか」
こちらの通貨はリンティスに頼んで少し貯めてある。この世界で回した方がいいのではないか、と判断したのもあった。それにしてもこれだけ大漁になるとは予想外だったので、用意した資金で足りるかどうか。
「申し訳ないけど、私からは八千ポンが精一杯です。足りますか?」
鈴の問いに彼等は彼等は顔を見合わせた。やっぱり足りないかな、と焦る彼女にリアンナが溜め息を吐く。
「それはちょっと多いわ、リン」
「へ?」
「その、少し距離はあるが危険がある程でもないし……冒険者のクエストなら、八百ポンで十分なくらいだ」
それをフレディが補足する。
彼等の常識から言えば、実に呑気な物見遊山半分で海までの経路確認も兼ねた漁で、そんなにもらってはむしろ自分達が申し訳ない。
「えー……でも私には有り難いですよ。じゃあ四千ポンで。あとついでに、今ここで少し料理してみるから、食べてみてください。試食ということでお代はいただきません」
鈴の方もそれくらいしないと辻褄が合わない気がする。ちょっと押し問答になったが、結局彼女の提案が容れられた。
リアンナとフレディはともかく、カークスとスーはまだその獲物が食用としてどうなのか、疑念を抱いているようなのでそれを納得させたいのもある。
貝は砂や泥を吐かせてから調理したい。海底に棲んでいるっぽい、鰈とか鯰に似た魚も同じく。そうなると選択肢はそうでない魚か海老・蟹の類い。




