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Fランクダンジョンの平和な日常〜はじまりのワンルーム〜  作者: 弌黑流人
第一章 はじまりのワンルーム

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第25話 移住競争

街の繁栄が頂点に達したころ、もはや「移住」という名の競争が始まっていた。


「マスター、今度は各国の王族が、こぞって『我が国をこの街の保護領にしてくれ』と申し出ております。なんでも、王宮のベッドよりも、この街の簡易宿泊施設の方が深く眠れるとのことです」


「……馬鹿げてるな。国を捨てるなんて、あいつら正気か?」


モニターには、豪華な馬車を連ねて門前に押し寄せる貴族たちの姿が映っている。彼らは皆、自分たちの国の領土や家臣、そして莫大な私財を投げ打ってでも、この街の「市民権」を求めていた。


俺の作る「規約」という安全保障は、彼らにとって何よりも価値のある資産なのだ。この街にいれば、誰かに暗殺される心配もなく、美味しい食事と快適な環境、そして「神にも等しい管理者」の加護が保証されている。


「セシリア。市民権の申請を認めろ。ただし、条件がある。申請者は全員、規約に基づき『個人の所有する私兵団を解体』し、街の警備隊へ編入すること。そして、所有する全宝物の三割を、街のインフラ整備基金として供出させる」


「それは……過酷な条件ではありますが、彼らは競ってサインを求めております」


「好きにしろ。あいつらが勝手にそうしたがっているんだ」


俺は冷ややかにそう言いながら、操作パネルを叩いた。ダンジョンポイントが、移住者たちの寄付によって加速度的に増えていく。このポイントがあれば、俺は四畳半をさらに拡張し、最新の全自動調理器を買い揃え、死ぬまで快適な生活を送ることができるのだが……このままでよい気もするので保留とする。


街が巨大な観光地になり、王族たちが俺の下僕のように振る舞う光景。それは本来、俺が望んだはずの「誰にも邪魔されない引きこもりライフ」とは対極にあるものかもしれない。だが、皮肉なことに、この莫大な経済圏を管理することで、俺の睡眠環境はより強固なものになっている。


街が大きくなれば、外部からのノイズを遮断する障壁も強固になる。俺の四畳半を囲む壁は、今や世界で最も硬い盾となっているのだ。


「マスター、本日の収支報告です。観光税、移住税、そして各種特産品の上納品、全て処理が完了いたしました。本日の目玉は、大陸西部の伝説の茶器一式でございます」


スピーカーから聞こえるセシリアの報告を聞き流しながら、俺は届いたばかりの茶器に紅茶を注いだ。確かに、これまでに飲んだどんな器よりも口当たりがいい。やはり、金は偉大だ。


俺は四畳半で紅茶を啜りながら、モニターに映る「超巨大リゾート都市」の夜景を眺めた。


人々は俺を「遠隔市長」と呼び、街のあちこちに俺(をイメージした石碑)が建てられ、今日もどこかで「市長様万歳」の声が響いている。彼らにとって俺は、姿を見せぬ絶対的な支配者であり、同時にすべての幸福の源泉だ。


「……観光地化か。難民が流れ着いた場所が、今や贅の極みか。あいつらも驚くだろうな」


俺は独り言をこぼしながら、スライムクッションを抱き直した。もし、俺がこの扉を開けて外に出たら、彼らはどんな顔をするだろう。ただ、パジャマを着て、四畳半で寝転がっていたかっただけの男だと知ったら。


「マスター、どうされましたか?」


「……いや、なんでもない。ただの独り言だ。それより、セシリア。街の景観維持を怠るなよ。もし、街が騒がしくなったら、すぐさま規約第88条『静寂義務』を発動するからな」


「かしこまりました! 市長様のご意志は、必ずや全住民に浸透させます!」


セシリアの言葉には、全くの疑いがない。俺はふっと笑った。外の世界はどんどん賑やかになり、俺の「働かないための努力」は、結果として世界で最も忙しい経済圏を生み出した。


だが、どれだけ外がバブルに沸こうと、どれだけVIPたちが俺の歓心を買おうと、俺の時間はここで止まっている。俺は、この四畳半の特等席で、誰にも邪魔されずに紅茶を飲み、寝る。


モニターには、セシリアが満足げに笑い、住民たちが歌いながら市場を整備する姿が映っている。これが俺の作り上げた「観光都市」の姿だ。俺はカップを置き、天使の羽毛布団に身を沈めた。


「さて……。明日は、どこの国の王族がどんな珍品を持ってくるかな。楽しみにしておくか」


俺は目を閉じる。外の世界の喧騒は、四畳半のドアの向こう側で、心地よいBGMのように響いている。


俺は今日も、この世界の市長として、誰よりも深く、快適な眠りにつく。働かざる者、世界を動かす、などという言葉は、俺には似合わない。俺はただ、快適な場所を追求した結果、そこにたどり着いただけなのだから。


ご拝読ありがとうございます。


国を捨ててまで……正気じゃないな。保護領の拡大によりダンジョンポイントは瀑布のごとき勢いで流れ込む!とはいえ、管理維持サービス諸々に使用するからランクアップ条件には引っかからない……かな。


さらなる成長と発展を遂げるのか?次回をお楽しみに!!


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