第1話 選択
これは、Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜の最初の物語。
「これからあなたが行く世界は、これまで過ごしてきた世界と違い、過酷な環境です。ですが美しい場所でもあります。私はあなたに、その世界で生き抜くための、二つのギフトを授けましょう」
真っ白な空間で、女神は二つの光り輝く宝珠を俺に提示した。
一つは、青く静かに澄み渡った知性の光。運営のギフト。
もう一つは、赤く激しく燃え上がるような情熱の光。冒険のギフト。
「どちらか一つを選んでください。それが、あなたの新しい人生の形となります」
前世の俺は、疲れ果てていた。
満員電車に揺られ、数字と納期に追われ、人間関係の軋轢に磨り減る毎日。
だからこそ、俺は迷わず、静かな光を放つ運営のギフトを指差した。
「……俺は、穏やかに過ごしたい。誰にも邪魔されず、自分のペースで、静かな日常を管理して生きていきたいんだ」
その選択の結果、俺の意識はひんやりとした無機質な物体――ダンジョンコアへと宿った。
だが、俺は女神から授かった運営の力を、本来の用途とは180度異なる、最大限に自分勝手な方向へと行使した。
本来なら迷宮を広げ、勇者を阻む軍勢を指揮するための知性。それを俺は、巨大な結晶体である「ダンジョンコアの内部」に、四畳半のワンルームと、何不自由ない「引きこもり環境」を構築するために注ぎ込んだのだ。
物理的な攻撃も、冒険者の喧騒も届かない。強固な防壁に守られた核の真実。その中身は、驚くほど現代的なワンルームだった。
まず着手したのは、魔力回路の有線LAN化だ。
ダンジョン内に溢れる膨大な魔力を情報伝達用に変換。コアの中にいながらにして、迷宮内のあらゆる場所を4K画質の映像で監視・管理できる「魔法のセキュリティモニター」を完備した。
次に、生活の質を支えるインフラ。
運営の副産物として生成される純度の高い魔力水を活用し、温水洗浄機能付きの便座を錬成。さらに、俺が念じるだけで献立を最適化し、下位スライムたちがプルプルと運んでくる全自動ルームサービス機能付き調理器も備えた。
そして仕上げは、外界遮断の防音壁。
新米冒険者の威勢のいい叫び声も、野良モンスターの咆哮も一切届かない。ワンルームの壁は、俺の安眠を妨げるあらゆる雑音をシャットアウトする絶対静寂領域として設計した。
「ふぅ……」
俺は魔法で生成したクッション性の高いソファに深く沈み込み、空中に投影されたダンジョンマップを眺める。
ここはFランクダンジョン。出てくるのは最弱クラスのモンスターばかりだが、俺の運営によって、その生態系は極めて平和に書き換えられている。
ご拝読ありがとうございます。
ダンジョンコアの中にあるワンルームでの引きこもり生活はここから始まった!
若かりし頃の彼の奮闘をお楽しみください。
さらなる成長と発展を遂げるのか、次回をお楽しみに!!




