第八十九章 火線突破
銃声。
壁を叩く衝撃音とともに、コンクリ片が頬をかすめた。
少年を抱えた仲間はとっさに身を屈め、廊下脇の配管ダクトの陰へ飛び込む。
「頭を下げろ!」
もう一人の仲間が低く怒鳴り、携行していた煙幕筒を床に転がす。
白い霧が噴き出し、廊下全体を視界不良に変える。
兵士たちは即座に対応し、赤外線照準器で煙を貫こうとする。
――しかし、この施設特有の高温配管から漏れる蒸気が混じり、熱源が乱反射を起こす。
「今だ、移動!」
少年を抱いた仲間が走る。
もう一人は遮蔽物代わりに転倒したカートを押し、移動する壁を作る。銃弾が金属に食い込み、火花を散らす。
「後ろ、二時方向!」
解析員が叫ぶ。
兵士が回り込んでいた。すぐに反撃は無理だ。
代わりに仲間は腰のスタンガンを投げつけ、至近距離で放電させる。
青白い光が走り、兵士の動きが一瞬止まった。
「非常階段まであと二十メートル!」
足音が、白い霧の中を響く。
しかし、シャッターが再び降下を始める。
「閉じるぞ、急げ!」
少年を抱える仲間は、最後の力を振り絞ってダッシュする。
解析員が端末を叩きつけるように操作し、強制的に回路をショートさせた。
火花とともに制御盤が煙を吐き、シャッターが一瞬停止する。
そのわずかな隙間を、彼らは身体を投げ出すようにして滑り込んだ。
直後、背後で鉄板が完全に噛み合い、激しい銃撃音が遮断された。
荒い呼吸の中、残響だけが耳に残る。
「……まだ追ってくる。ここからどう抜けるか考えないと」
仲間の声が震えていた。




