第八十六章 侵入
警報音が断続的に鳴り響き、施設全体が赤色灯に照らされていた。
外部からの進入は想定されていない――はずの地下構造。だが、監視システムが異常処理で処理能力を奪われた隙に、彼らは動いた。
仲間は二人。
一人は元警察の情報解析員。もう一人は現場経験豊富な民間警備の技術者。
どちらも少年と血縁や正式な絆を持つ者ではなかったが、それぞれの理由で彼を救わねばならなかった。
非常用搬入口。普段は封鎖されているが、火災や爆発時の排煙・避難経路として残されている通路だ。
その扉は電子錠と物理的な二重ロックで守られていたが、警備技術者は携行していた特殊工具で一つひとつ確実に外していった。
「……急げ、あと三十秒でセンサーが再起動する」
「わかってる」
扉を開けた瞬間、内部の熱風と警報音が押し寄せた。
そこは配線やパイプが剥き出しになった保守用シャフト。通常の研究員はまず立ち入らない場所だった。
二人は薄暗いその空間を懐中ライトと施設図面データを頼りに進む。
足元は鉄格子の床で、下からは蒸気と焦げたような臭いが立ち昇る。
途中、作動しっぱなしの冷却水バルブを閉め、熱気で膨張した管を避けながら、さらに奥へ。
彼らの侵入を阻む最大の壁は「バイオロック」だった。
研究者本人の掌紋か網膜がなければ開かない。
だが元解析員は、事前に入手していた退職研究員の医療記録データを利用してバイオ認証のパターンを再現、緊急モードで弱体化しているシステムに読み込ませることで突破した。
「……通った!」
「行くぞ。あいつが――待ってる」
扉の先は、赤色灯に照らされた広い区画。
壁一面に培養槽が並び、その一つに、名を失い器へ堕ちかけた少年が拘束されていた。
仲間はためらわず駆け寄り、彼の身体を揺さぶった。
「戻ってこい! お前まで失ったら……終わりだ!」
その叫びが、虚無に沈み込んでいた少年の心を揺さぶった――。




