第五十八章 侵食
――頭が割れる。
少年は両手でこめかみを押さえ、膝をついた。
データの奔流は止まらず、むしろ増幅していた。
脳の奥で何かが“開通”してしまったのだ。
耳鳴りが激しくなり、視界が白く滲む。
ただの情報ではない。これは命令信号だった。
《同期開始》
《端末ID:観測者》
《プロトコル・アダム接続準備》
――俺が……端末……?
背骨に沿って、冷たい電流が走った。
筋肉が勝手に痙攣し、両腕が突き上げられる。
心臓が早鐘を打ち、呼吸が乱れる。
自分の体が、自分ではない何かに握られていく。
「やめろ……! 俺は……俺だ!」
叫んでも、体は言うことをきかない。
脳の奥にもう一つの声が混じっていた。
《抵抗は無意味。おまえは観測者。アダムを起動するための“鍵”。》
――違う、俺はそんなものじゃない!
だがその反論に応じるように、さらに強烈な閃光が脳裏を裂いた。
瞬間、瞳孔が勝手に拡張し、視界に数式と設計図が流れ込む。
呼吸が浅くなり、意識が遠のく。
それは「知識」ではなく「強制的な上書き」だった。
少年の思考そのものが、誰かのプログラムに置き換えられていく。
――このままでは、俺は俺じゃなくなる。
喉を震わせながら、彼は必死に意識をかき集めた。
指先にはまだ握った鉄片の感触が残っている。
それは人間としての彼の「最後の抵抗」を思い出させた。
「……俺は観測者じゃない。俺は――」
脳内の声が重く響いた。
《観測者よ、目を開けろ。アダムが待っている。》
次の瞬間、全身に痙攣が走り、血が口元から滴った。




