微睡の中でかつての星を見る
沈むように意識が薄れていく。
ギリギリの戦闘で体をいつも以上に酷使したからか、普段より眠りが深い。
そのせいか、遠くに何か見えてきた気がする。
青い青い空の下、遥かに続く平原の真ん中で誰かが話しているようだ。
やがてその姿と声が明瞭に聞こえてくるのだった。
どこからともなく現れた龍は藪から棒に平原を歩いていた青年に話しかけた。
「こんなところに人間なんて珍しいな。何をしている、この先は魔王国だぞ。死ににでも行くつもりか?」
「ちょっと魔王をぶっ倒しにね」
青年は突然現れた龍に驚く素振りを見せず、軽い感じで中々にぶっ飛んだ事を言い出した。
「お前のような矮小な人間がか?」
「そうだよ。誰かがやらなくちゃこの戦いは終わらないからね」
堂々と言い放った青年に龍は面白そうにその巨体を震わせながら笑った。
「ハハハ、何も持たない癖に言い切るとはな」
「俺は至って真剣だよ」
「らしいな。見れば分かる。時に人間、オレたちの持つ龍の心臓は取り込んだ者に凄まじい魔力をもたらすのだが、欲しいとは思わないか?」
「思わないね」
即答の青年に龍はすぐさま疑問の声を上げた。
「何故だ?」
「それって、お前やその仲間を殺さなきゃ手に入んない物なんだろ。心臓って言うくらいだし。じゃあ、要らないよ」
「オレ達は龍だぞ。殺すことが困難だからと言う理由では無く、殺すこと自体を忌避するとはお前、変な奴だな」
「そうかな?」
「そうだよ。そもそも他の人間だったらオレの姿を見るな否や一目散に逃げていくからな。ちゃんと人間と話したのは初めてだ」
「確かに天災の類だって言われているからね。でも、こうして言葉を交わせるんだから人間と変わんないよ」
「——そうか」
龍は何とも言えない表情で青年の言葉を噛み締めているようだった。
「じゃあ、俺もう行くから」
「本当に行くのか、たった一人で」
「ああ、きっと大丈夫。俺は負けないよ」
そう言って青年が踵を返そうとしたのを龍は呼び止めた。
「ちょっと待て、やっぱり龍の心臓を持っていけ」
「いや、でも……」
「勘違いするな。龍の心臓をお前が使うんじゃない。龍の心臓を持つオレが一緒に行くと言っているんだ」
「良いのか?」
「ああ、何なら仲間達も呼んでやるよ。どうせ暇だしな」
「分かった、助かる」
「話は決まったな。ここで少し待っていろ。すぐに仲間を連れて戻る」
「気長に待ってるよ」
青年に見送られ、龍はその黄金の体に雷霆を纏い、ジェット機顔負けの速度で蒼穹の奥へと消えていったのだった。
「——あ、互いに自己紹介してなかったな」
言ってしまった後に青年はもっとも初歩的なコミュニケーションを忘れていたことに気付く。
「まあ、いいか。帰ってきたらまとめて紹介し合うか」
そう言いながら平原に腰を下ろし、いずれ英雄と呼ばれる青年は晴れ渡る青空を眺めながら風変わりな友を待つのだった。
さらに意識が沈んでいく。
もはや風景すら見えなくなり、眠りも深くなる。
今宵はここで仕舞いのようだ。
蒼穹において、星々の輝きはまだ暗い。




