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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-031 俺達と似た部隊


 ソリの跡を辿って拠点に向かう。

 昨夜は雪の吹き溜まりに横穴を掘っての野営だった。

 雪洞の中はロウソクコンロを点けるだけで結構温かい。それだけ外気が寒いのかもしれないが、銃撃戦の後は後方を警戒しながらの行軍だったから、ぐっすりと眠ることができた。

 さすがに見張りを2人ずつ交代しながらだったけど、暖かな部屋でお腹いっぱいの食事が取れれば疲れなんて吹き飛んでしまいそうだ。


「これで約束の1日半にゃ。諦めたかもしれないけど。後方警戒をしながら進むにゃ。オベルは歩けるかにゃ?」


「肩ですから問題ありません。流れ弾に当たるとはついてませんよ」


「肩で済んだなら、ついてるにゃ! 貫通銃創だけど出血は治まってるにゃ」


 血塗れ姿に最初は驚いたけど、撃たれた後で後方に這って来たから血が外套や顔にまで付いてしまったらしい。

 傷薬をたっぷり塗った布を傷口に押し当て、包帯をきつく巻いたから出血が止まったんだろう。右腕を三角巾で吊って、その上を更に包帯で巻いて腕を体に固定している。


「荷物は皆で分担するにゃ。フェンリルは、バルターが担いで行くにゃ」


 半自動小銃は使えないが、銃撃戦になったらリボルバーで応戦すると言っていた。

 イヌ族の1人が撃たれたけれど、反乱軍の人達の戦意は何時も高いからなぁ。無理はしないでほしいところだけどね。


「拠点はまだ遠いにゃ。今日は最初の野営をした先まで行きたいにゃ」


「あの野営地は使わないの?」


「最初の夜に罠にしたから、今度は引っ掛からないにゃ。後を付けてきたなら迂回して、後方から奇襲すると思うにゃ。だからさらに後方に下がって様子を見るにゃ」

 

 敵の行動を予想して、その裏をかくってことだな。

 掴まったのは1度だけの義賊だけに、深い読みだと感心してしまう。

 殿で敵の追撃に反撃しながらの後退2日目で、負傷者は1人だけだ。リトネンさんの戦術はかなり高度に思えるんだよなぁ。

 クラウスさんがリトネンさんに頼んだのも、そんなことを容易にできる人物として頼りにしたのかもしれない。


「リトネンは戦術を誰かに教えて貰ったのですか?」

 

「一緒に行動していた少尉に教えて貰ったにゃ。いつも3人で行動してたから、何時もがこんな感じだったにゃ」


「少尉なら、部下の数が多いだろうに。3人ってことは偵察部隊ってことか?」


「似たようなものにゃ。当時は私が一番年下だったにゃ。今は反対になってしまったにゃ……」


 自分の歳を思い浮かべてがっくりしているようだ。

 まだ若いと思うんだけどねぇ。今度姉さんと呼んでみようかな? 小母さんと言ったら射撃場の的にされそうだけど……。


 ゆっくり休めたし、約束の時間は稼いでいるから、無駄話をしながらの行軍だ。

 それでも後方をイオニアさんがしっかりと確認している。

 本当に安心できるのは、拠点に着くまで待つしかない。


 日が傾く前に、最初の野営をした場所を通り過ぎた。枝を重ねたような小屋はまだしっかりと残っている。

 野営地を300ユーデ(270m)程通り越したところで、リトネンさんの歩みが止まる。


「この大木の後ろに隠れるにゃ。少し洞が出来てるから都合が良いにゃ。周囲を枝で覆えば寒さも和らぐにゃ」


 急いで枝を集め、洞を覆う。

 数人なら中で休めそうだ。外も枝を使って低い小屋にしたから、見張りはその中で出来るだろう。

 洞の中でロウソクコンロを使って、先ずはお茶を作る。

 暖かなお茶は、それだけでご馳走だ。


「結構しつこいからなぁ。またやってくるかもしれないぞ」


「銃弾の残りが気になるところです」


「まだ3クリップは残ってるだろう? 2人で20人はやれるはずだ。これまでだいぶ倒してるからなぁ。追手の数は少ないはずだ。

 だが、もしもやって来たなら、厄介な相手かもしれないぞ」


 フェイネルさんと周囲を監視しながら声を潜めて話をしていた時だった。


「やはり分かるか……。来るとすれば、そうなるだろうな」


「あのう……、俺には分からないんですが?」


 俺達の会話に入って来たのはイオニアさんだった。

 イオニアさんの話によれば、厄介な相手とは俺達と似た狙撃に特化した兵士らしい。


 旧王国では、そんな部隊を作ろうかと計画していたらしいのだが、最初の試験運用部隊を作った時に帝国との戦が始まってしまったらしい。


「数人の部隊だったが、かなりの成果を出している。だが帝国では既に組織化していったらしい。大隊に1個分隊規模で配置されているそうだ」


「似た者同士の戦いってことか? リトネンで対処できるんだろうか?」


「たぶんできるに違いない。もっともリトネンだけでは無理だろうが、リーディルがいるからな」


 俺の肩をポンと叩いて、フェイネルを連れて後方の影に隠れた。

 しばらくすると煙るが見えたから、タバコを楽しんでいるんだろう。森の中を吹く風がその煙を直ぐに吹き消してしまう。

 

 そろそろ薄明が始まる。

 今夜来なかったということは、諦めたんだろう。今夜はベッドで寝られるかもしれない。

 暖かなベッドを思い浮かべていると、リトネンさが俺を突いて、200m程離れた藪に指を向けた。


「2人いるにゃ。一番端の小屋に銃を向けているにゃ」


 短眼鏡で覗いてみると、藪から銃身が少し突き出しているのが見えた。

 その藪の奥でちらりと何かが光ったように見えた。双眼鏡で監視しているのだろう。

 まるで、俺とリトネンさんそのものじゃないか。


「銃の奥にいることは確かにゃ。狙えるかにゃ?」


「想像して撃つことになりますが……」


「それで良いにゃ。誘ってあげるから上手くやるにゃ」


 誘う? どうするんだろうと考えたけど、それは後で教えて貰おう。

 ゆっくりと銃の方向を、敵の潜んでいる藪に向ける。


 銃身の向きを考えると、ここからは斜めに伏しているはずだ。

 見えない相手を藪の中に描く。

 たぶん、これで良いはずだ。さすがに頭部は無理だろう。肩と腹部に狙いを付ける。


「いつでも射てます!」


「それじゃあ、始めるにゃ!」


 ガサリと左手で音がした。相手の銃身が動く。あの動きなら間違いない。

 簡単に祈りを捧げるとトリガーを引いた。


ターン! という音が森に木霊すと、狙った藪が激しく動き始めた。


「当たったみたいにゃ。これで付いてこれないにゃ」


 下草が南東方向に動いていく。

 引き摺るような音も聞こえてくるから、歩けないほどの重傷なのだろうか。

 

「銃声が聞こえましたが?」


「リーディルが敵の狙撃兵を仕留めたにゃ。見えない相手を倒せたなら、一人前にゃ」


 周囲を警戒しているイオニアさんに、リトネンさんが話をしている。

 半年以上たった気がするけど、まだ一人前と思われていなかったんだな。

 

 イオニアさんが俺の肩をポン! と叩き、「よくやった!」と褒めてくれた。

 他の連中も起きだしてきたから、ロウソクコンロで沸かしたお茶を飲み朝食を取る。


 付近に警戒に出掛けたファイネルさんが、血の跡が南東に続いていると教えてくれた。


「あそこから、あの藪を撃ったんだろう?銃口しか見えなくても当てられるんだな?」


「俺と同じように伏射体勢を取っていると想像して狙いを付けたんです。リトネンさんが近くの藪を動かしてくれたんですが、藪の一部しか動きませんでしたから間違いないと撃ちました」


「そういうことか。リトネンは石でも投げたんだろう? だが、帝国も狙撃兵を使いだしたら面倒なことになりそうだな」


「列車襲撃は危険になるにゃ。いつも私達が殿だとは限らないにゃ」


 俺達なら何とかできると思っているのかな?

 だけど、俺達がいない時だってあるはずだ。それに少人数での拠点襲撃の可能性も出て来るんじゃないかな。

 谷の出口なんて、狙撃兵なら容易に狩り取れそうだ。

 拠点の防衛体制も考えないといけなくなるに違いない。


 まだ日が登らい内に、さっさとこの場を後にして拠点を目指す。

 昼食は運んできたハムの残りを焚き火で焼いた。

 燻製肉の大きな塊があるからね。これを食堂後に運べば俺達の仕事は終わりになる。

 

 夕暮れ前に拠点に戻ると、食堂後へ向かう。

 食堂は破壊されたままだけど、調理室は健在だ。燻製肉と背嚢に詰めてあったハム引き渡して部屋に戻る。


 装備をリビングの片隅に置いて、先ずはシャワーを浴びてくる。

 冷え切った体に、熱いお湯が心地よい。


 部屋に戻ると、母さんがテーブルでお茶を飲んでいた。エミーは飯盒を持って夕食を分けて貰いに出掛けたようだ。


「クラウスさんから、殿をしてると聞いて心配してたのよ。無事で良かったわ」


「何度か危ない目にあったけど、乗り越えてきたよ。今回は特別だと思うな。かなり食料を運べたはずだ。……それとこれはお土産。残ってた食材をあちこち詰め込んできたんだけど、これぐらいは役得で良いんじゃないかな」


 外套のポケットからハムを1個取りだした。

 部屋のストーブで温めて食べれば3日は持つんじゃないかな。


「班長さんには断って来たの?」


「運んできた大荷物を渡せば良いと言ってくれたけど、背嚢に入れた肉類は全部置いてきたよ」


 俺の話を笑みを浮かべて頷きながら聞いてくれた。

 ハムを手に戸棚に行って、扉を開けると大きなハムが入っている。


「クラウスさんが届けてくれたの。『リーディルは殿だからお土産は期待できないだろう』と言ってたわ」


 小隊室で合ったら礼を言っておかないといけないな。

 母さんがハムを切ってフライパンで焼き始める。

 温かい部屋で食事ができるんだから、やはり拠点は良いところだ。


 ミザリーが帰ってくると、3人だけの夕食が始まる。分厚く焼いたハムにミザリーが笑みを浮かべていた。


 夕食が終わると、何時もならミザリーが電信の練習をしているのだが、今日は本を取り出して読んでいるようだ。

 本も拠点で手に入るのかと尋ねると、新しい無線機の取り扱い説明書だと教えてくれた。


「各小隊に無線機が配布されるみたいなの、私達のところにその通信が入ってくるでしょう。無線局が2つになるみたい」


「各拠点の通信と拠点内の通信になるらしいわ。拠点内も離れた場所で話ができるようになるらしいわ」


 だんだんと便利になるってことかな。

 襲撃時に部隊間の通信ができれば、クラウスさん達も状況の変化に応じた指揮を執ることができるだろう。それだけ俺達の安全が高まるかもしれないな。


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