J-032 新たな仲間と次の作戦
予想していた拠点への攻撃は無く、長い冬もそろそろ終わろうとしている。
空中に浮く巨大な芋虫は、帝国軍の飛行船と呼ばれる兵器だと判明した。上空2千ユーデ(1800m)まで上昇でき、毎時80ミラル(128km)で飛行できるとのことだ。千ミラル先の大陸にある帝国から2隻この国に飛行してきたらしい。
乗員は5名で、口径5イルム(12.5cm)重砲の砲弾を加工した爆弾を20個搭載できるということだから、帝国の科学力は凄いものだと改めて感心してしまう。
「そういうことだから、防御の脆弱な拠点を放棄して、統合化することになった。この拠点の防御は堅固だからこのまま維持されるが、人数が半分以下になるとのことだ」
破壊された村の後始末を考えていた俺達には、クラウスさんの告げる内容は衝撃的だった。
「主な理由は、我々の科学力と技術力の統合化にある。蒸機人、飛行船、蒸気機関車に蒸気自動車……、いずれも帝国の方が優れているか、または帝国でのみ製作されているものだ。
藁の国に進駐してきた軍に対して、何時までも小規模な戦いを挑んでいては、何時まで経っても国を取り戻すことはできないだろう。
よって反乱軍の総力を挙げて、帝国に対抗できる兵器を開発せねばならない。
国力比は100倍以上あるだろうが、帝国としては我等だけに戦力を集中できない状況にあることも確かだ。
この世界にある国々がまだ残っている今なら、まだチャンスはあるだろう」
西の大陸全てを征服したわけではないらしい。
戦っている国々と連携が取れれば良いのだが、まだそこまで入っていないんだろうな。
場合によっては、俺達が帝国を追い出した暁には、そんな国々と連気を取ることができるのかもしれない。
とは言っても隣国の王国は、戦の準備も碌にしていないらしい。
帝国が東の穀倉地帯を攻めあぐねているのを見ているからだろう。その先に自分達の王国があると考えることはないんだろうか?
「どの部隊を残すにゃ?」
「結論から言えば、4分隊にした第1小隊だけになる。リトネン達は分隊とは別口だ。住民も三分の一になって、ドワーフ族は十数家族が残るだけになる」
「出撃したら、防衛が出来なくなるにゃ!」
2個分隊程度で出撃することになるんだろう。今までよりも規模の小さな襲撃になるに違いない。
「本来なら全員で東に移動するはずだったんだが、帝国の連中が王都の北部を穀倉地帯にする計画があるらしい。東の穀倉地帯の代わりになる食糧庫を自ら開発するようだ。完成したなら東の穀倉地帯の意味が薄れるだろう。それを遅らせることがこの拠点が残る理由だ」
「破壊でなく、遅らせると?」
「戦力比がそもそも違うのだ。計画の破壊は、残った戦力では無理だろうな。
だが、相手にはこの拠点の戦力は分かっていないはずだ。小規模でも交戦することになれば、この山のどこ階拠点があると考えねばなるまい」
どんな作戦が始まるんだろう? ちょっと楽しみだけど、母さん達はどうなるのかな? 残ってくれるなら良いんだけど……。
その夜、母さん達に拠点の規模が小さくなることを話すと、母さん達も今日聞かされたらしい。
「家族を切り離すようなことはしないそうよ。私とミザリーは残ることにしたわ」
「通信局も規模が小さくなるんでしょう?」
「それでも5人残るわよ。夜間の当直は1人になってしまうでしょうね。3人でいつも一緒に食事と言うことは難しいかもしれないわ」
「でも、私と同じぐらいの子供達が練習してるの。結構上手になってきたから手伝って貰えるかもしれないわ」
直ぐにできるようになるとは思えないんだよね。激務にならないかが心配だな。
母さんもだいぶ良くなってきたようだけど、町に住んでいた時にはずっと床に就いていたぐらいだ。
いくら心配したところで、方針は決定されてしまっている。
引っ越しに向けての準備が始まり、雪解けと共に東に向かって2、30人の組になって旅立っていく。
他の拠点からドワーフ族が呼び寄せられて、工房の機械が解体されているようだ。
十数家族は残ってくれるのは、物を作るより修理のためになるんだろう。
電力や水道などの設備も、小型の蒸気機関を使って動かすらしい。
引っ越しの対応は第2、第3小隊が対応しているから、俺達第1小隊は帝国軍の状況確認と、次の作戦を小隊室で考えている。
もっとも、クラウスさんと議論しているのは分隊長達とリトネンさんだけだ。
俺達は屋外射撃場で射撃訓練をしたり、距離の目測が正しくできるように訓練を継続している。
そんなある日の事、俺達の小隊に10人程の男女がやって来た。その中に5人のトラ族の少年がいるんだけど、彼等も戦うのだろうか?
俺達を集めてクラウスさんが説明してくれた話では、分隊ごとに少年兵を1人付けるとのことだ。
ちょっとブーイングが出たけど、少年達を戦力とは考えていないらしい。
「彼等は来年には成人だ。武装はして貰うが自衛用だ。成人後はフェンリルを持たせれば良いだろう。彼等の役目は、通信機の操作だ。しっかりと覚えて貰ったから、分隊間、拠点との通信が可能だ。これから小隊内で連携せねば手ひどい痛手を受けかねん」
新たな兵員と通信機を扱う少年を書く分隊に割り振って、クラウスさんの話は続いた。
どうやら北の出入り口と谷の出入り口に、鉄パイプで作った柵のような扉を2段に設けることにしたらしい。
2段目の扉には、警備員の待機所を設け常時5人を待機させるというから、かなりしっかりした警備が出来るに違いない。
今までなかったのがおかしいと思うぐらいだ。
「帰った時の扉を解除するには、拠点の通信局に信号を送れば良い。通信局から、待機所に扉の解除を聯絡することになっている。小隊が全員出撃することは、今のところ想定していない。1個分隊は拠点防衛に残すつもりだ。住民で2個分隊の防衛隊を組織する。3個分隊で守って貰いたい。以上だ!」
何時ものテーブルで、新しい隊員の自己紹介を聞く。トラ族の女性と俺より年下の少年の2人だ。リエランとオルバンという名前だったんだが、何と姉弟だった。
「弟は結構頑固なところがあるんですが、よろしくお願いします」
リエランさんが俺達に頭を下げる。
弟さんが可愛いんだろな。良い姉さんだ。
「銃は、レバーアクションか!」
「結構使い易いにゃ。銃弾はリボルバーと同じものにゃ。でも、強装弾が撃てるにゃ」
「フェンリルと同じですか?」
「そうにゃ。イオニアは使っていたかもしれないにゃ」
「部隊の半数は、それでしたね。ウエインⅡ型、良い銃ですよ」
明日にもファイネルさんが、射撃場に連れて行くんだろう。
俺は大きな背嚢の方が気になった。
テーブルに置いた時に、ゴトンという音がしたんだよな。
オルバンが背嚢を開くと中が2つに分かれていた。下の空間は俺達の背嚢と同じに飯盒や革袋が入っているのだが、一番上は通信機が入っていた。
「こんな風に使うんです」とその場で組み立ててカタカタと電鍵を打つ仕草を見せてくれた。
受信はレシーバーを使うか、受信機に付いているランプの点滅で確認するらしい。
いくつかスイッチが付いているけど、俺達にはさっぱりだな。
通信はオルバンに任せておこう。
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ウエインⅡ型は、銃身下部のシリンダーマガジンに8発の弾丸を装填できるらしい。フェンリルと同じ弾丸かと思ったら、俺のリボルバーの弾丸と同じ口径らしい。
「100ユーデ(90m)ならかなり収束するな。150(135m)は8発中3発が板に当たったぞ。牽制には使えるし、接近戦なら頼れるんじゃないか」
「当座は通信に専念でしょうね。でも自分の身を守るのであれば問題は無さそうです」
銃弾は30発を装備ベルトのポーチに入れて、24発が入った紙製の小箱を背嚢に入れているらしい。
弾幕を張る感じで撃ってくれれば敵兵も近寄れないだろう。フェンリルよりはだいぶ軽いとファイネルさんが言っていた。
オルバンから拝借して自分でも撃ってみたのかな?
「防衛隊の女性達もウエインⅡ型を使うらしいぞ。体格の良い小母さんはゴブリンを使うようだけどな」
「きちんと小銃を保持できるかどうかで銃を選んでいるってことですか?」
「そんな感じだな。防衛隊に参加しない連中も小型のリボルバーを持つことになったそうだ。護身銃では戦えないからなぁ。射撃場が賑わっていたけど、前に銃弾を撃てるなら十分だと思うよ」
前に飛ぶなら、味方に当たることも無いだろう。
数人で銃座に籠れば、早々突入しては来れないんじゃないかな。
拠点の銃座は、銃眼が小さいから狙いずらいんだが、敵から手榴弾を投げ込まれることはない。
足止めを意識して作られているようだ。
オルバン達がやって来て10日程過ぎると、引っ越しで賑やかだった拠点がだんだんと静かになってきた。倉庫や住居区画、工房などを閉鎖して土砂で塞いだから、こじんまりとした拠点に変わってしまった気がする。
食堂や売店も小さくなって再開された。
山は、春の芽吹きが始まろうとしているある日の事。
クラウスさんからの指示が下った。
「どうやら、俺達の拠点の調査が始まるようだ。位置は飛行船の攻撃を受けているから帝国も知っているのだろうが、拠点周辺の防衛状況が分からずに攻撃を控えているようだ。
王都北部の開発には、この拠点が邪魔になるんだろう。潰しに来るぞ」
大部隊でやって来られたら、どうしようもないんじゃないか?
俺達の表情がこわばってくる。
「やって来たとしても1個大隊にはならんだろう。こちらに大戦力を回すことはできないはずだ。それに出入り口は3カ所だけだ。崖を下りて村跡に来ることもあり得るが、これも出入り口は簡単に閉じられるし、周囲は銃眼だらけだからな。
そして一番の問題は、拠点を守る部隊の配置が分からないことだ」
そんな部隊はいなし、陣地だってない。
無い物を探そうってことなのか?
「リトネン達は、その探索部隊を排除して欲しい」
「追い返せば良いのかにゃ? 埋めてしまうこともできそうにゃ」
「リトネンの判断で良いぞ。第一、第二分隊も動かすが、おおよその活動範囲はこの位置だ。リトネンの方は少し険しい場所だが何とかなるだろう」
「了解にゃ。状況報告は、無線機を使うのかにゃ?」
「3番で12時半にして欲しい。何かあれば5番で連絡だ。部隊間の連絡、こちらからの連絡は3番を使うぞ」
オルバンがしっかりとメモしている。筆記用具は通信機にも備えてあるようだ。通信機は結構便利かもしれないな。
「出発は何時にゃ?」
「王都からの連絡待ちだ。準備だけはしておいてくれ。10日は掛かりそうだぞ」
クラウスさんから地図を受け取り、リトネンさんが了解を告げる。
さて、準備に取り掛からないと……。
山に分け入るまでには2日は掛かるだろう。森から入ってもここに来るまでにもう2日掛かる。
俺達は拠点から1日の距離で、様子を探ることになりそうだ。
安全な場所を見付けて、そこから周囲1ミラル(1.6km)ほどの範囲を見張ることになるんだろう。
部隊の人員が多くなればなるほど、進む道は限られるとリトネンさんが教えてくれたけど、相手は偵察部隊だからなぁ。
あちこちと動き回る可能性もありそうだ。
「背嚢に入れる携帯食料は3日分で良いにゃ。その代わり弾丸の予備を入れとくにゃ。雨も降るし、広い範囲を見張るから双眼鏡の予備も探してみるにゃ」
テントも必要ってことかな?
外套はいらないだろうから、ブランケットを持って行くことになりそうだ。食料と水はドワーフ族が運んでくれるんだろうか?




