増築と発狂と変な事
「な、成…金…?」
「略しちゃだめよ~」
「で、その成金がどうした?」
「言っちゃった……まぁ、いいわ。その真似をして家を建てたくなっちゃったのよ。で、建てたのがこの家ね」
香水さんの言葉につられて、目の前の日本家屋を見上げる。
……でかい。以上。
「アメリカのホラーハウスみたいに増築しまくったわけじゃなくて、ある程度おっきな家として建てたあと、増築したらしいわ」
「増築は大事なんだ……」
確かに初めに見たときは、でかいなー、としか思わなかったが、ちょっと視点を変えてよくよく見れば、奥行き半端ない。
正面からみると二階建てだなーって感じだったのが、横にずれてみるとデコボコになっていて、一階のとこと二階になっているところがある。
これ、もしかして、離れもある感じ?
「ふぇー。中ってどうなってんの?」
「それを今から見に行くんだろ?」
さいで。
「面白いのは、ここからなのよ~」
「まだあんの!!」
「そうなの!!変な構造だからなのか、怪奇現象が多発したらしくて、結局、成…金…さんは発狂しちゃったらしいのよ。でね、この家に入ると“変な事”と遭遇したり、発狂するって話しなのよ。今回の依頼は、そんな“変な事”を映像に納めることなの」
へー……発狂。大丈夫なの?
「まぁ、大丈夫でしょ。そこんとこのプロなんだから」
「俺は違いますよ!」
「じゃあ、いってらっしゃい!!」
ばいばーい、と暢気に手を振る香水さんを全力で振り返る。
「え?香水さん行かないの?」
「行かないわよ。だって、『仲介屋』ですもの」
先生!!裏切りものがここにいます!!
「じゃ、行くぞ」
「まってまってまって!だめ!準備が出来てない。主に心の準備が!!」
しかし、水澄は俺の言葉を相変わらず聞くことなく、サクサクと建物に向かっていく。
「ちょ、ちょっと!!」
慌て水澄を追いかける。
建物に入る前、ちらりと振り返ると香水さんがまだ手を振っていた。
「いってらっしゃい」
「……行ってきます」
「おーい。置いてくぞー?一人で探索したいなら別だが」
「いやいやいや。ちょと待って!」
あいつなら平気で置いていくだろう。
バタバタと走り出した俺は、後ろで香水さんがどんな顔をしていたのかなんて知る由もなかった。