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第05話 ♨ 夜を旅館で過ごす ♨

勇たちはたくさんの具材を頬張って食べていたこともあり、あっという間に夕食の時間は終わってしまった。

しかし、勇には気になっていたことがあったのだ。それは夏鈴のこと。



勇に対して少し冷たいように感じたのだ。夏鈴は凛とした顔ということもあり、そう見えるだけであるかもしれないが、何か素っ気なかった。

また、勇もそれに対して何も言えない。夏鈴は有名人。初めてまじかで見る、そして暮らすのでどう接していいかわからなかったのだ。



夏鈴の接し方について自分の部屋で考えていた所、ちょうどミナが部屋に入って来た。

最初は夏鈴のことを玲奈に相談しようとしたのだが、先ほど、いっぱい食べて疲れていたのか寝てしまっていた。



「勇さん、ちょっとよろしいですか?」

「どうしたの?」



勇は何かあったのかという目で見ている。もちろんどんな用事なのかわからない。



「ちょっと、夏鈴さんのことでご相談が。」

「あ、もしかして有名人だから失礼のないようにって感じのこと?」

「ま、それもそうなんですけど、夏鈴さんどういう風に感じましたか?」

「なんか俺に冷たいなって感じたけど、そういう人だったりするのかなって思ったくらい。」



ミナはそうですかと、安堵の息を吐いた。しかし、ミナの表情を見ていると何やら簡単なことで済まされる要件ではないことはわかっていた。

急にミナの顔は険しくなる。



「実は夏鈴さん……」



勇は少し身構える。



「極度の男嫌いなんです。だから冷たい態度をとってしまうんです。夏鈴さんも克服しようと頑張っているのですが、それが難しいらしくて。」

「極度の男嫌いって? 男が苦手なの? 」

「はい。私から断言できるのはこのくらいです。」

「でもどうしてそんなことになったの?」

「私も確かとは言えませんが……」



夏鈴の過去を聞いて勇は悲しい気持ちになってしまっていた。

夏鈴は中学校のこ頃、友達に秘密でアイドルをやっていたらしい。その頃は、今とは違い人気はあまりなかった。

デパートなどでライブをやっていたくらい。




そのライブをやっていたら、クラスの男子に見られてしまったそうだ。

その後、学校で夏鈴の情報が拡散された。本当のことも、嘘のことも。

夏鈴はその日から友達が徐々に少なくなってしまったそうだ。



今だったら人気アイドルグループに所属しているので無視をできていたのかもしれない。



しかし、その頃は進路ですごく迷っていたのだそう。心もだいぶ不安定な時期である。

その時期に嘘の情報が拡散されることで夢を半分壊された。その悲しみから男をかなり嫌いになるようになってしまったそうだ。



地元から距離を置くために神田旅館へ入居したそうだ。現在、アイドルを一年間休業中。



「ですから、少し夏鈴さんは勇さんに対して失礼なことをしてしまうかもしれないということを伝えに来ました。」

「別に俺は気にしないよ。でもこの旅館の一員として、明日から同級生として仲良くなりたいな。」



うーんと二人は腕を組み、沈黙してしまった。するとミナがひらめく。


「あ、そうだ!勇さん! 夏鈴さんと一緒に温泉入ってみたらどうです?」

「温泉に入る。それは…… ちょ、え!? は!?」


勇の頭は変な想像しかできなくなってしまっていた。しかも突然当たり前のような感じで言われたので驚くのも無理はない。

というか普通は驚く。



「あれ? 言ってませんでしたっけ。男湯と女湯は分けられていますが、すぐ隣なんですよ。だからそこで話してはいかかですか?」

「でも……」

「ひなのさんにも言っておくので大丈夫ですよ。」



よくわからないが、ミナの謎の自信にグイグイ押され、うんと言わざるをえなかった勇であった。

ミナが部屋を出ていった後、今度はひなのが勇の部屋を訪れた。



「おーい勇、夏鈴と一緒に風呂入るんだって?」

「一緒にってわけじゃないけど……」

「ま、知ってるよ。仲良くなりたいんだって? みゃーが協力してあげるよ。とその前に勇さ神ヶ崎高校のクラス知ってる?」



神ヶ崎高校、それは勇が明日から通う高校である。なぜひなのがこのような質問をしたのかというと、勇が入学式を風邪で休んでいるからだった。



「俺、休んだからクラスも、席もわからない。宮日は知ってるの?」

「だってみゃーと同じクラスだし、席隣だよ。席は名前順とかじゃなくて先生がランダムで配置したんだって。」



どうやらひなのは入学式の時、クラスで隣にいるはずの勇がいなかったことを不思議に思ったのだそう。

勇は話がそれ、夏鈴のことは忘れたかと思いきやそんなはずはなく、また本題に戻った。



「で、夏鈴がお風呂入る時、私も一緒に入るから頃合いを見計らって話かけて。」

「でもどうやって……?」



当然の質問である。女子風呂に話かけてと言われて行動する人は少ない。

また、勇は女子の話題なども知らなく話すきっかけが見つからないのだ。



「そこにいるのは宮日か? 明日のことなんだけどさー っていえばよくない?」

「いや、それは非常識な人って思われるだろ……」



ひなのは首をかしげて疑問を瞳の奥に宿しているようだったので、本気の案だったようだ。

すると、近くで寝ていた玲奈がゆっくり起きる。



「ふぁ~よく寝た。勇にぃ夏鈴さんとなんかあったの?」



玲奈は空気が読めるのか、それとも相当空気が読めないのか、絶妙なタイミングでなにかと口を挟んでくる。

しばらくした後ひなのがわかりやすく玲奈に説明をしていた。時々ひなのが勇をいじってきたのでその度にツッコミをいれなければいけなかった。



「なるほどねー、勇にぃは夏鈴さんに話しかける口実がないと、なら私とひなのさんで話しかければいいんじゃない?」



こう言うと、先ほどのひなのと同じ案に聞こえてしまうが、結論は玲奈とひなのが夏鈴と話しているところを勇が玲奈に話しかける。

そういう作戦だ。ひなのによるとあと少ししたら夏鈴が風呂に入るそうなので、勇は先に温泉でゆっくりしていることにした。



勇は部屋に用意してあったタオルと浴衣を持っていき、男湯に入っていった。

『男湯』と書かれた昔ながらののれんをくぐり、脱衣所へ行く。



「かなり広いなこの温泉……」



このように口にしたのは、まず脱衣所から広い。これを勇一人で使えると考えたら目が回ってしまう。

そのくらい豪華。そして服を脱いで温泉へと続く扉を開けるのだがまたそこでも驚いてしまった。



景色は最高。周りの草木はライトアップされている。露天風呂はもちろん、寝湯もあった。

遠くにはほんのりと山も見える。



「最高だなほんと……」



言葉が何も考えなくても出てしまう。勇にとっては小6いらいの温泉であった。



「いやーやっぱ一日の疲れは温泉でとるのが一番だよねー。みゃーは寝湯に行ってるね。」



ひなのの可愛らしい声が聞こえてくる。どうやら作戦が始まったようだ。



「私、温泉入るの地球では初めてなんです! 確か露天風呂が人気なんですよね?」

「そうだよ。玲奈ちゃんは初めてなのかな? お兄さんとは入らなかったの?」

「そうです。私は小2のころ亡くなったので、温泉というものすら知らなかったです。」



玲奈と夏鈴の普通の会話が聞こえる。どうやら二人は問題なく仲良しなようだ。

夏鈴の声はアイドルで歌っているときの声と全く変わらなかった。



勇も体を流して、露天風呂に入る。勇はちょっとだけどんな話をしているのかが気になっていた。



「そいえば夏鈴さん、私の兄のことどう思います?」

「え⁉ とてもいい人そうに見えるんだけど、私男嫌いだからどうしても冷たい目で見ちゃうんだよね。仲良くしたいのに……」

「仲良くしたいなら明日の朝、話しかけてみればいいじゃないですか。勇にぃもきっと仲良くなりたいと思うんだよね。」



おっと、少し勇が会話に入り込めなさそうな雰囲気になってきた。このまま話に割り込むと常識のない人と思われそうだ。

ちなみに今の玲奈の言葉で夏鈴のちょっと顔を赤くしている様子がわかった。



「そういえばまだ誰にもいってないんだけど、ひなの、玲奈ちゃん、相談に乗ってくれる?」

「どうしたの? 夏鈴が相談なんて珍しいじゃん。」



ひなのが寝湯で横になったまま、夏鈴を見つめる。



「私、アイドル戻ろうと思う。今日玲奈ちゃんとか、上川君を見てて、すごい仲いいなって思ったから。」



メンバーとは家族以上の関係になっていきたいからと話していた。

するとひなのが今度は相談に乗ってほしいらしい。



「みゃーもさ、相談があるんだよね。どうやったら胸を大きくできるの?」



さすがの勇も風呂で咳をしてしまった。たぶんひなのと玲奈は作戦のことを忘れている。

このままずっと会話をしていても完璧な女子会話。ただ恥ずかしくなるだけである。

温泉で女子会を開いてしまったようだ。



勇は気まずくなったので、そっと風呂を出るのであった。

夏鈴とは話ていないので全く仲良くなれなかった。



その後、勇は今日は疲れたということで早めに布団に入った。

何やら勇の隣でもぞもぞしているものがある。なにかと思い、触ってみると柔らかいものであった。



「ん……、勇にぃどこ触ってるの……?」

「え!? ごめん!! というか玲奈は自分の布団があるだろ!」

「いや、私、暗い所苦手なんだよね。だから、その、」

「どうしたんだよ。」

「一緒にくっついて寝ていい?」



正直またまたクエスチョンマークが浮かびあがった。どういうことだろうか。

勇には妹と寝るということが理解できない。



でも、これで何か玲奈を刺激してしまっては今日の朝みたいに金縛りにあいそうだ。それどころか未知なる力を使ってきそう。

少し抵抗はあるが、承諾はした。玲奈は何がうれしいのかわからないが、はしゃいでいた。




――翌朝――



勇が眠れたのかというとというとあまり眠れていなかったようだ。

それもそのはずほんとに玲奈の言う通り、くっついて寝てきたからだ。



玲奈の胸が勇の腕に当たり、少し恥ずかしくなってしまい、布団を調節したりと慌ただしい夜だった。

で、肝心の今日の目覚めはというと手足も自由に動かせるようだし、玲奈も隣で寝ている。



どうやら普通に寝ているようだった。と思ったが、勇は宙に浮いていた。玲奈と共に。

辺りを見るとなんと最悪なことに女子トイレの前であった。



玲奈が寝ぼけてしまったようだ。寝相が悪いというレベルではない。

ここで誰かが来たら最悪だ。



その最悪な事態はこのようなことを考えてからすぐに訪れた。

足跡が聞こえてきたのだ。階段を降りる音。ミナであろうか。



「あ、今日から学校だ。 冷たい目で見ないよう気をつけなくちゃ。」



なんとミナではなく、この少し高いような声は…… そう夏鈴である。

変態だとは思われたくないので急いで玲奈を起こす。



しかし、玲奈は寝ぼけて



「勇にぃの腕からは離れましぇーん……」



などと寝言を言っている。どんどん足音が強くなって来てしまう。



「あ、」

「……」


勇は夏鈴と目があい、なにも言えなかった。

足跡の正体は夏鈴であった。



「え? なんで上川がここにいるの? まさか女子トイレのぞき?」

「いや、これは誤解だ! 玲奈が念力を使ったから今、体がうまく動かせないんだ。」



最初は夏鈴はその言葉を信じていたが玲奈が寝言で変なことを言ってしまう。



「もう勇にぃからは離れにゃい。でも胸だけは……ZZZ」

「え?上川、玲奈ちゃんの胸を!?」



そういうと夏鈴も混乱したらしくとても厳しい眼差しをこちらに向け、顔を赤くして立ち去っていった。

その瞬間玲奈は起きたので勇は地面に落ちる。



「どうすればいいんだよ……」



夏鈴と仲良くなるには困難がいっぱいの勇であった。



今回は、夏鈴中心で書いてみました。次回からは学校編が始めります。

新しいキャラも登場するのでよろしくお願いします。

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