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旅に出てから最初の町に着く前にイケメンと遭遇しました。

 更に魔法の特訓を加えて三ヶ月が経ち、俺はヤンバルさんから免許皆伝とまでは言えないが、冒険者として最低限のことは覚えたという太鼓判を押され、遂に半年に渡って過ごしてきたこの森を出ることとなった。


「翔太殿。このヤンバル。旅の無事を祈っておりますぞ」


「色々とありがとうございました。お世話になったヤンバルさんのためにも、きっと目的を果たしてみせます」


 俺とヤンバルさんは、互いに別れを惜しみながらも、最後は笑顔で別れの言葉を口にして、俺は半年間住み続けた小屋を後にする。


 今の俺の格好は、動き易い皮の鎧に、胸や各部に動きを阻害しない程度に金属を貼り付けた軽装な鎧と腰にショートソードを提げているという、このエッグワールドでは良く見かける冒険者の格好をしている。


 学生服などの俺の私物や、旅の必需品なんかは、ヤンバルさん直伝の空間拡張魔法で全てポケットの中に納まっている。特に重さも感じず、欲しい物をすぐに取り出せるこの魔法のおかげで、ほぼ手ぶらでも、長旅を続けることが出来るので大助かりだ。


 稀に遭遇するピヨスライム蹴散らしながら森を抜けると、昼過ぎに細い街道へと出た。


 ヤンバルさんの話では、この街道から更に北に二時間ほど歩くと、少し大きめな街、ターキータウンに着くらしい。その街には冒険者ギルドもあるそうなので、そこでギルドに登録するのと、今までピヨスライムを倒して手に入れたソウルエッグを換金することが、取り敢えずの目的だ。


 正直に言って、これから換金するお金だけじゃ、旅費の足しにしかならず、船に乗のる乗船賃には程遠い。


「まずはギルドに登録して金を稼がなくちゃな」


 ヤンバルさんにも、旅費の足しにと幾らか貰ってはいたが、このお金は本当にいざという時までは、出来るだけ使いたくない。


 元の世界だろうが異世界であろうが、人は文明の中で生きる以上、常にお金の工面について考えなければならない運命のようだ。


 俺が厳しくも辛い現実を知り、また一歩大人への階段を昇りつつ、ターキータウンへと続く道を一時間ほど歩いた頃、俺の目の前で、戦闘が行われているのを視界に捉えた。


 俺と同じか少し年上と思わしき、金髪蒼目のイケメンが、目新しい鉄の鎧を着込み、ロングソードを振り回して戦っている。


 相手は俺がこの半年で虐殺してきたピヨスライム三匹に加えて、ピヨスライムの倍近い大きさを誇り白い半透明で、頭部に赤い鶏冠を持ったモンスターが二匹。


 実際に見るのは俺も初めてだが、ヤンバルさんから習った覚えがある。確かあのモンスターはピヨスライムの上位種のコケスライム。


 このエッグワールドにおける全モンスターの中でも、最下層に位置するピヨスライムの上位種と聞くと、そんなに強そうには思えないかもしれないが、絶対に侮ってはいけない。コケスライムはピヨスライムと比べると三段階以上の強さ。ギルドで定められている方式で言うのであれば、駆け出しの冒険者が一人で対峙した際は、必ず逃げるようにと教育されるほどの強さを誇る。


 それは基本的な能力全てが、ピヨスライムを上回っているからというのもあるが、それ以上に厄介なのは……。


「不味い!?」


 俺はコケスライムの一体が後ろに仰け反るのを見て、思わず駆け出した。


 コケスライムの厄介な能力。それは先程の仰け反るモーションの後に起こす事象である。何とコケスライムは、あのモーションを行った直後に必ず火球を敵に向けて放つのである。


 そう。コケスライムは火属性の攻撃魔法を使えるのだ。


 無属性の魔法ならば、この世界の多くの人が使えるが、それを戦闘系で使える人は多くない。まして属性魔法を使える人となると、更に数は少なくなる。


 ヤンバルさんは基本属性は全て扱えていたが、この世界でそれが出来る魔法使いは殆ど居ないと言って言いだろう。


 つまり実戦で戦うことが出来る魔法使いは、この世界では貴重な存在であり、それは相手が魔法を使う場合において、かなりの脅威と成りうるということを意味する。


 イケメンは目の前のコケスライムと、ピヨスライムに気を取られて、後ろから火球が飛んで来そうなことに気付かない。


 俺はこの三ヶ月の間で、会得した無属性魔法の一つである筋力強化と、風の属性魔法である移動速度高速化を併用して、一気に距離を詰めて、腰に提げたショートソードを抜き放ち、火球を放とうとするコケスライムを一閃する。


「コケー!?」


 俺の突然の乱入と攻撃に面食らって、火球の生成を中断して、驚愕の声を上げる。


「き、君は?」


 俺を見たイケメンも俺を見て驚くが、そんなことを気にしている場合ではない。


「話は後で。今はこの状況をどうにかする方が先だ」


 イケメンに一声だけ掛けてから、俺は先程の一閃を食らい怯んだコケスライムに追撃を仕掛ける。


 思わず後先考えずに飛び込んでしまったが、結果的にこれは俺にとって良い経験になるかもしれない。知識だけでならばヤンバルさんから、かなりの数のモンスターの情報や弱点を聞いているが、実戦ではピヨスライム以外のモンスターとは戦ったことが無いので、不安だったのだ。


 模擬戦代わりにと、ヤンバルさんと良く手合わせをすることはあったが、全方位からの魔法攻撃晒されてそれを全て避け続けるなんていうことが殆どだったので、正直なところ、俺が冒険者としてどれだけの腕前なのか、俺自身がイマイチ分かっていなかったりする。

 

 だから、今の自分が何処まで通用するレベルなのか、確かめさせて貰おう。


 コケスライムの弱点は、ピヨスライムと同様にクチバシ部分。そしてもう一つ、頭の鶏冠部分に魔素を集める器官を有しているので、その部分さえ潰せば、倒せないまでも、魔法を使えなくすることが出来る。


「まずはコケスライムの鶏冠を攻撃しろ!そこさえ潰せば、火球は撃てなくなる!」


「わ、分かった!」


 俺の言葉に返事を返したイケメンも、ピヨスライムの体当たりを避けつつ、もう一体のコケスライムに狙いを定めてロングソードを振るう。


 取り敢えず他のモンスターの相手は、あのイケメンに任せて、俺は目の前の相手に全力を注ぐ。


 コケスライムのクチバシの強度は、ピヨスライムに比べて、かなりの強度を誇る。なので、通常のショートソードの一撃だけでは倒しきれないかもしれない。


 俺は新たな魔法を発動させる為に、大気中に満ちる魔素を、己の中に取り込み、自身の生体エネルギーと混ぜ合わせて、頭の中にイメージする。そうすることによって、元居た世界では有り得なかった事象を、俺は現実に引き起こす。


 魔法の概念を知識として知り、それを自分の中で一つの現実へと変える。それがこの世界での魔法。だから良く漫画で見るような呪文の詠唱は必要無い。ただ発動させる魔法を自分自身で組み上げて完成させる。


 俺が発動させた魔法は、無属性の一つである。物質強度の硬化と腕力強化。


 この魔法によりショートソードの刃は本来の状態よりも硬さが増し、俺の腕の力も短時間ではあるが、化け物染みた怪力を発揮出来る状態となった。


 その渾身の一撃によって、コケスライムのクチバシは粉々に砕かれて、光の粒子となって消えていき、俺の目の前にはその光が結晶化したソウルエッグだけが残る。


 コケスライムを一撃で倒せたことで、俺の強さが冒険者としてやっていけると確信させてくれた。慢心をしてはいけないとは思うが、それでもピヨスライム以外に、俺の戦い方が通用したという事実は何よりも嬉しい。


 俺は一先ず、心の中で喜んでから、反転して今も多数のモンスターを相手に奮闘するイケメンの手助けへと向った。それから約数分後。この戦いは俺とイケメンによる急造タッグの勝利で幕を閉じた。

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