第十五話
「っ!?…誰かやったな」
顔面に父親からの拳が飛んでくる直前、ネビロスが見えていた記憶が消え、あたりは真っ暗になった。弱々しい笑みを浮かべるネビロスはホッとしたような声を上げた。しかし、此処からが問題だった。
――映像が消えたのは良い。だが、外部から干渉できるのは此処までだ。此処からは……。
黒い空間に足をつけるネビロス。目の前にいきなり現れたのは彼の幼き日の姿。後ろに出てきたのは大嫌いな父親。
――俺がこの空間から自力で出れば俺の心は成長する。『魔王』から外れた方向に、な。そうすれば世の理から大きく外れる。完全に『魔王の結末』を変えてしまう可能性が大きくなる。修正されるんだ。光の速度を超えられないように空間を歪めるように、変わりつつある俺の存在意義を変える為にな。
「なんで、子供を助けるの?」
子供のネビロスが静かに問う。
「家族がいないってのは寂しいからな」
「魔王に同情などという感情はいらん」
後ろから聞きたくもない声が飛ぶ。
「なんでだ?俺は『魔王』という前に『ネビロス』という個体だ。俺がどんな感情を持とうとお前には関係ないだろ」
「キマイラにいわれた言葉だろう」
「そうだな。あいつは良い奴だ」
表には出さなかったが、ネビロスは感激していた。正直『魔王』のイメージからかけ離れている自分を理解してくれる者は早々居ない。
「…仲間なの?」
高い声が飛ぶ。悲しげで感情の無い目がネビロスの姿を映す。
「あぁ」
「仲間は居ちゃいけないんだよ…?」
「いつか必ず死ぬ運命だからか」
ニヤリと目の前の幼子が笑う。
「そうだよ。仲間想いならなんで仲間を作るの?苦しむだけだよ?皆が苦しむだけだよ?魔王は一人で生きていかなきゃいけない完璧な存在なんだよ?孤独を愛する存在なんだよ?他の者など屑なんだよ?魔王は、魔王は一人で死ななきゃいけない運命なんだ!!!!」
「巨大な力を持つが故に誰にも愛されず、恐怖され、畏怖され、離れられる。世界を自分の物にすればその虚無から救われるんだ!!!」
頭に直接響く悪魔の囁き。幼い頃に教育されて一度根付いたしまったネビロスはその言葉に流されそうになるが何とか耐える。
「ハッ…。矛盾している…。虚無から救われるならば何故一人で死ななきゃいけないんだよ」
「「それが世の理だから」」
――またそれだ。俺は、一人は嫌だ……。




