第十四話
――早く、早く気が付け…!誰でも良い。スイレンでもリュイでも最悪へっぽこでも良い……。
そんなネビロスの願いも虚しく次から次へと思い出したくも無い記憶が掘り返される。『教育』され感情を少しでも表に出せば暴力を振るわれ、戦闘教育という名の父親の八つ当たり。痛みに少しでも顔を顰めればまた殴られる。記憶に終わりが来れば再び最初に戻って繰り返す。目を瞑ってもイメージは鮮明に脳裏に写る。
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「んだよ…。どうすれば……」
ニーラが頭に手をやって眉間に皺を寄せた。目の前のネビロスは眠っているというよりかはぐったりとし始めている。
「魔術とか使えないの!?精神系の!!」
「俺は回復魔法しか使えない……」
スイレンが泣き出しそうな顔になった。
「僕だって魔術は簡単なのしか…。リュイも使えない…って、リュイ!?」
スイレンがネビロスを今まさにたたき起こそうとしているリュイを抑えた。真顔で、手を思いっきり振り上げているリュイは少し怖い。ニーラが顎に手を当てて考える。
「…いや、止めるな」
「何で!?」
人間に近い魔族と、純粋な魔物。リュイが本気を出してスイレンから離れようにも無理だ。スイレン自体其処まで力を入れて抑えているわけじゃない。
「精神系の何かだったら本体に何かしら衝撃を加えれば何かが起こるかもしれない」
「『何か』ばかりじゃないか!!衝撃を加えた事によって逆に嫌な方向へ落ちる事だってあるだろう!?そんな予測ばかりの方法何か僕は認めない!!!」
自分に名前と新しい家族をくれた大恩人であるネビロスに危害を加える物は許さない。ニーラを見る目はそう物語っている。
――そういえばガーゴイルは守る為に戦う魔物だと言っていたな……。スイレンにとっての『守る物』はネビロスってことか。……じゃあ、俺の守る物って?
「スイレン、離して」
いつもの明るい声色ではなく怒った声色。スイレンよりも薄かった金の目は濃く光っている。しかし頭に血が上り始めたスイレンはそれに気が付かない。
「兄さんを殴るようならいくらリュイでも僕は許さないよ」
ネビロス本人でしか解けない筈の変化の魔術がスイレンの怒りに比例して崩れていく。金の目が本気を出したネビロスの様に爬虫類のような目に変わる。
「スイレンよりも私のほうがお兄ちゃんよりも一緒に居るの!いいから離して!!」
リュイの叫びと同時に代わる彼女の姿。小さかった体は大きくなり、ワンピースを着た女性がそこに立っていた。スイレンが驚きを隠せず、リュイと同じ髪色のネビロスと似た髪形の女性を見上げていた。ニーラも言葉を失う。
「…お兄様を助けるのは私」
例えるならば水面に波を立たせぬ様な静かな声。美しい、同性であるニーラもそう思う声。次に、パチン!とピンタをした音が聞こえた――。




