第十二話
「あれ?スイレンは?」
とある森の中。スイレンとネビロスは飛行能力があるが、リュイとニーラを運んで飛ぶとなるとかなり体力を使うので基本は徒歩で移動している。次に目指すは世界最大の図書館がある大きな国。調べ物をするにはもってこいだ。
野宿の準備をしているといつもリュイと共に居るスイレンがいないことに気が付いたニーラがきょろきょろしながらリュイに聞いた。リュイはあっち、と自分の右側を指差した。強い魔物が少ない春の大陸とは言え、子供(魔物、しかも強い種族に当たるガーゴイルだが)が一人で森をうろつくのは危ない。そう思ったニーラはリュイに教わったとおりの方向に行けばそこには森にはそぐわぬ鳥人間みたいな石像が鎮座していた。
「んだこれ…?ここに神殿とか建物でもあったのか……?」
そう独り言を言いながら石造に触れようと手を伸ばした瞬間がっしりとその腕を掴まれた。鋭い爪が生えている四本指の石の手。恐る恐るその腕の本体を見てみれば動くはずが無い石像。石だった目がキラリと金色に変わった。
「魔物ォ!?」
背中の聖剣に空いているほうの手で掴もうとするとその手も掴まれた。小さく悲鳴を上げるニーラ。
「食べちゃうぞー!!ぐわーー!!!」
ニーラの背後からなんとも脱力しそうなほど可愛らしい声を上げながら襲ってくるのはリュイ。目の前の石像もクスクス笑っている。
「リュイ…?え……え、え?」
混乱しているとクツクツと喉の奥で笑いを堪えている音が聞こえた。手にいっぱいの魚を持ってやってきたのはネビロス。ついに笑いを堪えきれなくなったのか大声を出して笑い始めた。
「おまっ、そい、つは、スイレンだ、スイレン。ハハハハハハ!!!ビビッてやがる!!」
ツボに入ったらしい、腹を抱えだした。ニーラの腕を掴んでいた石像は腕を放して立ち上がった。鳥のような頭に蝙蝠の様な翼、腕は膝下まで伸び、何故か美脚だ。服や靴はスイレンが着ていた物。そういえば…とニーラは記憶を巡らす。
「最初に会ったとき、その姿だったな……」
既に彼女は元の姿のスイレンに出会っているのだ。やっと思い出したニーラにネビロスはまた笑う。スイレンは石像の色からもとの色に戻った。青に近い紫色の肌、魔族の証である金の目。身長はニーラより少し小さいぐらい。スイレンもクスクス笑いながら説明した。
「僕はガーゴイルだよ?動くはずの無い石像が動いたら殆ど僕の仲間!」
成功!とリュイとハイタッチを交わす。ネビロスの笑いがやっと収まったらしく、スイレンの姿を人間の姿にした。ネビロスも若干手助けをしたらしい。
「まぁ、元々は宝石とかを守る為に入り口にこいつらが居たんだ。守る為に戦う魔物だからな。守る物があれば石像じゃなくても戦う。有名な魔物だがそんな知識も無いのか。流石へっぽこ勇者だな」
いつもの皮肉も交えて付け加える。踵を返し、焚き木を集めた場所に全員で戻る。ネビロスの魔術で火をつけ、棒に魚を刺して焼き始めた。
「それにしても、ネビロスって声に出して笑うんだな。なんと言うか、以外だ」
「失礼な奴だな。俺にも感情や表情はある」
少しと離れた木の幹に寄りかかって魚が焼けるのを待つ。リュイとスイレンは手遊びに夢中になっている。
「けど、仏頂面かリュイたちに見せる微笑と人を馬鹿にしたような笑みしか見たことが無い。笑うにしても軽くだし」
ネビロスはしばしの沈黙の後、目を瞑って少し苛立ったような声色になった。
「……そういう教育を受けているだけだ。少し考えれば分かる事だろう」
いや、わかるか!と喉まで来たが、いつもより眉間に皺が寄っているのを見て止めた。彼の怒りに比例するかのように焚き火の火は轟々と燃え上がっていた。




