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放課後ノイズの終わらせ方  作者: 甘めの鯨肉
放課後戦争編
1/11

プロローグ

 放課後の教室は、西日で赤くなっていた。


 窓際の席から見るグラウンドはもう薄暗い。運動部の声もさっきより遠くて、校舎の中は少しずつ静かになり始めていた。


 机に頬杖をつきながら、白峰瑠美音しらみね・るみねはゆっくり息を吐く。


『帰ったら寝たい』

『バイトだる……』

『またミスった』

『最悪』


 途切れ途切れの感情が頭の奥へ流れ込んでくる。


 聞こうとしてるわけじゃない。


 勝手に入ってくる。


 人が多い場所は昔から苦手だった。


 教室も、電車も、昼休みの廊下も、とにかくうるさい。


 声じゃなくて、感情が。


 だから放課後は少し楽だった。


 人が減るぶん、ノイズも減る。


 完全に静かにはならないけど、それでも昼間よりずっとマシだ。


 教室の扉が開く。


「まだいたんだ」


 聞き慣れた声だった。


 瑠美音が顔を上げる。


 御影陽太みかげ・ようたがスポーツバッグを肩に引っ掛けたまま立っていた。ネクタイは少し緩んでいて、たぶん部活帰りだ。


「帰るとこ」


「それ一時間前くらいにも聞いた」


「気のせい」


 陽太は笑いながら瑠美音の前の席へ座った。


 その瞬間、頭の奥が少し軽くなる。


 ざわざわしていた感情が遠のいた。


 理由はわからない。


 でも陽太の近くにいると、ノイズが静かになる時がある。


 瑠美音はそれを口にしたことはなかった。


「部活は?」


「途中で抜けた」


「サボりじゃん」


「文化祭準備で疲労してるので」


「何もしてないでしょ」


「精神面を担当してる」


「一番いらない担当」


 陽太が机に突っ伏す。


 適当すぎて、瑠美音は少し笑った。


 その時だった。


 耳の奥で、嫌な音が鳴る。


 キィン、と金属を擦るみたいな高い音。


 瑠美音の表情が止まった。


「……白峰?」


 陽太が顔を上げる。


 次の瞬間、校舎のどこかで大きな音が響いた。


 窓ガラスがびり、と震える。


 廊下の向こうから悲鳴が聞こえた。


「うわっ、何!?」


「逃げろって!」


 走る音が一気に近づいてくる。


 同時に、大量の感情が頭へ流れ込んだ。


『怖い』

『無理』

『嫌だ』

『助けて』


「っ……」


 瑠美音は机へ手をつく。


 頭が痛い。


 息が詰まる。


 感情が多すぎて、うまく呼吸できない。


 廊下を生徒達が走っていく。


「暴走してる!」


「誰か呼べ!」


「こっち来るぞ!」


 空気が妙に重かった。


 窓の外を見ると、夕焼けが不自然なくらい赤い。


 瑠美音は唇を噛む。


 本当は逃げたかった。


 こういうのには関わりたくない。


 痛いのも苦しいのも嫌だ。


 でも。


 頭の奥に引っかかる感情があった。


 このままだとまずい。


「白峰」


 陽太が立ち上がる。


 さっきまでの気の抜けた感じが消えていた。


「行ける?」


 瑠美音は少し黙る。


「……無理だったら」


「その時は逃げる」


 陽太はあっさり言った。


「一緒に」


 瑠美音は小さく息を吐く。


「ずるい」


「褒め言葉?」


「違う」


 もう一度、大きな振動が校舎を揺らした。


 遠くで誰かが泣いている。


 陽太が扉のほうを見る。


「行くぞ」


 瑠美音は頷いた。


 二人はほとんど同時に教室を飛び出す。


 廊下には、まだざわめきが広がっていた。

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