表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

鼓動のデシベル

放送室に、小野寺美華がやってきた。

埃臭かったはずの部屋が、彼女の匂いで満たされていく。

距離感の壊れた彼女に翻弄され、俺の平穏は音を立てて崩れ始めた。

なぜ、こうなってしまったのだろう

意識が、あの日へと引き戻される


俺が放送部のドアを開けた、あの日だ


そこは五畳に満たない薄暗い部室だった。窓から差し込む西日に埃が舞う密室。

中央の錆びついたパイプ椅子に「彼女」は座っていた。


小野寺美華


クラスの中心にいるはずの少女が、膝の上で文庫本を広げている。


逆光に透ける髪が淡い金色に光り、ページをめくる指先は驚くほど白い。

鉄錆や埃の匂いしかしない空間に、場違いなほど甘い香りが漂っていた。


その姿は、暗闇を照らす女神か、あるいは、俺の平穏を奪いに来た天使か。

少なくとも、陰キャの俺が一生関わるはずのない、眩しすぎる光だった。


「……ねえ、聞いてるの?」


鈴を転がすような声が、鼓膜を直接震わせた。

一瞬で意識が現実へ引き戻される。


目の前に、小野寺の顔があった。


驚くほど近い


「あ……ああ、悪い、なんだ?」

「なんだじゃないよ、これどうやって使うの?」


不思議そうに小首を傾げる彼女。その瞳が至近距離で揺れている。

クラスで見せる「完璧な美少女」の仮面を脱ぎ捨て、新しいおもちゃを見つけた子供のような、純粋な好奇心の輝き。


そんな顔で覗き込まれたら、たまったもんじゃない。


鼻先をかすめる甘い匂いが、さらに濃くなる。

心臓が、耳元で鳴っているかのように大きな音を立て始めた。


「……解説してほしいみたいな顔で見んなよ」

「えー、だって気になるんだもん、ねえ教えて?」


彼女はそう言いながら、さらに一歩、俺のパーソナルスペースへ踏み込んできた。


肩と肩が触れそうな距離。


古いミキサーが放つ機械の熱と彼女の体温が混ざり合う。

放送室の温度が急上昇した気がした。


心臓の鼓動がうるさい。


「……佐伯くん?」


名前を呼ばれ、ようやく自分が息を止めていたことに気づく。


隣に立つ彼女から漂う、甘い石鹸の匂い。

それが肺にまで入り込み、頭がどうにかなりそうだった。


「あ、いや……それは、もっとゆっくり動かすんだ」


震える指先を隠すように、俺は手を伸ばした。

彼女がフェーダーにかけていた指の上に、俺の指が重なる。


『熱い』


冷たいプラスチックの感触を挟んでいるはずなのに、彼女の体温が電気ショックみたいに俺の腕を駆け抜けた。

脳内の回路がショートして、火花が散った気がした。


「……あ、佐伯くん手が震えてるよ?」


小野寺が、至近距離で俺の顔を覗き込んできた。

長いまつげの隙間に見える瞳が、面白そうに揺れている。


「……っ、悪い、もう時間だ」


俺は弾かれたように手を引き、椅子を鳴らして立ち上がった。

心臓の音がうるさすぎて、自分の声さえ遠くのノイズのように聞こえる。


「え、もう終わり? まだ聞きたいこと……」

「終わりだ、鍵は俺が閉めておく先に行け」


俺は彼女の返事も待たず、乱暴にメインアンプのスイッチを切った。


スピーカーからノイズが消え、急激な静寂が訪れる。

その静けさが、かえって俺の鼓動を強調しているようで、耐えられなかった。


カバンを掴み、戸惑う彼女を置き去りにして、俺は部室の重い扉を開ける。

背後から届く彼女的視線を振り切り、旧校舎の廊下を走り出していた。


夕闇が迫る校庭、運動部の掛け声。

そんな日常の音が耳に入らないほど、俺の指先は、今も彼女の熱を覚えている。


俺は、逃げるように帰った。

とりあえず頑張って2話目を作ってみました、今日はある程度の方々が入学式などですね、ご入学おめでとう御座います。

自分も今年受験生ってことあるので頑張っていきましょう!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ