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03:アイリン

 イーテルニル王国の王都から、2つ領地をまたいだ最東端に、エテールとよばれる領地があった。


 現在フェリックス・イーテ・エテール伯爵が領地を治めるその土地は、昔ドラゴンが住み着き、盛んであった林業ができなくなり、窮地に立たされていた。


 そんな時1人の英雄が、エテール領に現れた。

 

 英雄の名は、リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーといった。


 リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーはエテール領に、天使のパンの製法を新たな産業として広め、貧窮していた状況から救い出したのだ。


 そして皆から恐れられていたドラゴンを、見事討伐してのけたのである。


 その後もリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーは、新たな技術を次々とエテール領にもたらした。


 その結果エテール領は、飛躍的な発展を遂げ、裕福な領地となったのだ。


 現在エテール領は、新たなパンや料理の発信地でもあり、有名な温泉街として知られている。


 また最近有名となったのが、エマ・イーテ・カルリエの開いた、魔拳流の道場である。


 エマ・イーテ・カルリエは、アリスフィア王女の腹心を長く勤め、黒いゴーレムから国を救った英雄として知られている。


 武にも優れ、類まれなる回復魔法の使い手であることから、聖騎士の二つ名でよばれる人物でもある。


 そんなエマの立ち上げた魔拳流道場に、足しげく通う1人の少女がいた。

 彼女の名は、アイリン・イーテ・エテールといった。


 わずか7歳の彼女は、すでに魔力が発現しており、風魔法と回復魔法、さらには火の魔法が使えた。


 身体強化も優れており、怪力で頑強であり、大人の戦士であっても、簡単にねじ伏せるほどの強さであった。


 フェリックス伯爵とエイリーン夫人の間の子とされているが、最近になって師として尊敬する、エマこそが本当の母親だと知らされる。

 その父親については本人は聞かされてはいないが、噂から英雄リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーこそが、そうではないかと思ってはいた。


 

「アイリン迎えに来たわよ!」



 その日道場にアイリンを迎えに来たのは、義母エイリーン夫人であった。

 エイリーン夫人は、5歳になるアデラールというエテール家の長男と、数人の使用人を引き連れて、魔拳流道場にやってきたのだ。



「おかあさま! アデラール!」



 そんな義母にさっそうと走り寄る、長い銀髪の少女こそアイリンだ。



「これはエイリーン夫人。今日はご子息もご一緒ですのね」



 するとアイリンの後ろから、長身の女性がやってきた。

 彼女が魔拳流の道場主、エマ・イーテ・カルリエだ。



「貴女もたまには屋敷に帰ってきなさいよ? お義母(かあ)さまも貴女に会いたがっていらっしゃるわ」


「もう家を出た身ですから、そうおいそれとは・・・」



 エマは今までの活躍を評価され、男爵位を賜っていた。

 そこで新たな家名、『カルリエ』を名乗り、エテール家を出ているのだ。


 その日もエマは愛娘を、笑顔で手を振り見送った。





「貴女将来のことは考えている? 将来はやっぱり王都へ行くの?」



 帰宅の道すがら馬車の中で、そうアイリンに尋ねたのは、エイリーン夫人だった。



「ワタシやっぱり王都に行きたい!! それでおか・・・師匠と同じように赤薔薇騎士団に入るんだ!!」



 アイリンは実の母、エマと同じように王都に行き、赤薔薇騎士団に入団する気でいた。

 それは周囲から度々、母エマの武勇伝を聞かされた影響でもあったが、本人も王都の騎士には興味があったのだ。



「でもその前に魔術学園に入らなきゃね?」


「ええええ!」



 アイリンは戦いには興味があったが、読み書きはあまり好きでなかったので、魔術学園の『学園』という響きがあまり好きになれなかった。

 そのため魔術学園を嫌っていたのだ。



「貴女の本当のお母さまも、まずは魔術学園に入学したのよ。それで姫さまの護衛を無事に勤め上げたの」


「え!? 本当に!? じゃあワタシも姫さまの護衛になる!!」


「ふふ。貴女の時にはたぶんリンデル王子が入学されるわ。もし護衛になるなら、そのリンデル王子の護衛になるわね・・・」



 このイーテルニル王国には、アイリンと同年代の、リンデルという王子がいたのだ。

 アイリンが魔術学園に入学するころには、彼も同じく入学するであろうといわれていた。



「ええ・・・王子か・・・。ワタシ姫さまが良かったのにな・・・」


「こら! 不敬よアイリン!」


「ふふふ!」



 そう舌を出して笑うアイリンの笑顔には、あの黒髪の少女の面影が見えて、エイリーン夫人は少し寂しくなった。


 7歳の誕生会で笑顔を見せる、その黒髪の少女を思い出し、そっと護身用に持ち歩いている奇抜な杖に手を当てる。


 その杖はその黒髪の少女が作ったものであった。


 そして思えば魔術学園の功績の多くは、この奇抜な杖があったからこそ、成しえたものだったと思い出す。


 エイリーン夫人は魔術学園で、初歩的なものではあるが、誰でも理解できるような無詠唱魔術の指南書を作り上げているのだ。

 それまで達人技といわれてきた無詠唱魔術も、その指南書により、よりいっそう身近なものになってきている。





「ただいまリリアン!!」



 アイリンを屋敷で最初に出迎えたのは、羊型ゴーレムのリリアンだった。

 リリアンは義母エイリーンのゴーレムで、二足歩行する羊のぬいぐるみの姿をしているのだ。


 リリアンの仕事は、こうして家族を出迎えることだ。

 思いの他怪力で、力仕事に駆り出されることもあるが、それ以外は玄関の隅でおとなしく飾られている。



「ただいまおとうさん!」

 

「お帰りアイリン。道場ではどうだった?」



 そう言って後から出迎えに出てきたのは、義父フェリックス伯爵だ。

 フェリックス伯爵は顎髭をたくわえ、長い髪をなびかせている。



「師匠が最強だった! ワタシは2人まで倒したよ!」


「そ、そうか。それは良かったねぇ・・・」



 その話ではなかなか要領を得ないフェリックス伯爵だったが、おそらくまたトーナメント的なことをしていたのは予測できた。



「おばあちゃんとおじいちゃんは今どこ!?」


「お婆ちゃんはメイド達と食事の準備じゃないかな? お爺ちゃんはまだ執務を手伝っているよ」



 フェリックス伯爵の父フォンティールは、爵位をフェリックスに譲り渡しても、仕事だけは止めようとしなかった。


 一方フェリックス伯爵の母アレクシアは、度々メイドに混ざり、料理などの仕事をしていた。

 王都で女官を務めていた彼女は、領地に帰ってもじっとしていられず、こうしてメイドの仕事を手伝っていたのだ。



「明日は新作パンの発表の日だよ! 皆よんでパン工房へ行かなきゃ!」


 アイリンは、はしゃぎながらそう口にした。


 エテールの街では、毎年天使のパンの新作が発表されるのだ。

 その日は多くの人が、そのパン工房の前に集まり、試食会が開催されるのだ。

 エテール家の面々も、その日だけは皆でパン工房へおもむくのだ。


 そのパン工房では昔から多くの孤児が働き、『天使のパン工房』とよばれ親しまれていた。

 天使のパン工房の敷地内には、孤児院も建設されており、そこでパン作りを学んだ孤児の多くは、将来パン屋を開くために、他領へと向かうのだ。



「リンネちゃん・・・これが今年の新作のパンよ・・・」



 アイリンの義祖母であるアレクシア夫人は、少女の石像の前に今年も新作のパンを掲げる。

 その顔は笑顔だったが、どこか悲しげでもあった。


 天使のパン工房の敷地内には、1人の少女の石像が祭られており、今も孤児達を見守っている。



「アイリン! 帰るわよ!」


「は~い! 今行く!」



 孤児とはしゃぎまわるアイリンが、弟アデラールとともに待つ義母エイリーンに呼ばれて駆け寄る。



「あの子も将来はリンネちゃんみたいになるのかしらね? 今はぜんぜん似ていないけど・・・・」



 その様子を見たアレクシア夫人は、そうしみじみと呟くのであった。

【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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