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01:黒髪の赤子

 その日森の中を歩く、子熊の姿があった。

 子熊は黒髪の赤ん坊を大事そうに抱きしめ、その森の奥にあるといわれる、エルフの住む村を目指していた。



「・・・ちゃん、もうすぐだからな・・・」



 子熊は無表情なその黒髪の赤子に、そう声をかける。

 子熊の名前はクマジロウ。

 過去にフェンリルと自称していたこともある聖獣であった。



「なんだ? もらしちまったのか? ・・・ちゃんは表情が変わらねえから、何が言いてえかわからねえぜ。うぅ・・・オイラに早く笑顔でも見せてくれ・・・」



 クマジロウの抱く赤子は、泣きもしないし笑いもしない、不気味なほど無表情な赤子であった。

 そんな無表情な赤子を、クマジロウは悲し気に見つめる。


 クマジロウがそんな赤子のおむつを、慣れた手つきで替えていると、そこに老婆のエルフが影のようにぬっと現れた。



「ひゃ! ひゃ! ひゃ! ご無沙汰しております聖獣様」


「ミア婆か・・・元気そうでなによりだな」



 ミア婆はエルフの護りの森を守護する、エルフでも超一流の魔術師であった。



「ところでそちらの赤子はどなたのお子です?」



 そう言いつつその赤子の顔を、ミア婆がのぞき込む。



「オイラの子だと言ったら・・・笑うか?」


「ひゃ! ひゃ! ひゃ! 笑いませぬ・・・」


「笑っているじゃねえか・・・」



 そんなやり取りがあって、しばらく2人には沈黙が続く。



「その規格外で特異な魔力・・・・この婆の記憶が間違いでなければ・・・そのお子はまさか・・・?」


「わかっているならいい。村へ案内してくれ。・・・ちゃんの静養には、このエルフの森の環境が一番いいだろう・・・」



 そうクマジロウが言う理由は定かでないが、クマジロウがその赤子との安住の地に選んだのが、エルフの村であったことは間違いなかった。





「わあ!!」「可愛い!!」


「何処の子!?」



 村へ着くとさっそくエルフの子供達が、赤子を抱くクマジロウを囲んだ。



「随分と無表情な子ねえ。名前はなんていうの?」



 そうクマジロウに尋ねたのは、村の子供の中でも年長のエフィーだ。

 エフィーは今年で二十一であったが、エルフの成長は遅く、見た目はまだ中学生ぐらいであった。



「まあ・・・わからねえよな? こんなに縮んでいちゃあ・・・」


「「??」」



 エフィーや子供達は、そんなクマジロウの様子に、困惑するばかりであった。



「よくぞおいでくださいました聖獣様」



 そこへ現れたのは、村のエルフを引き連れた、エルフの護りの森の村長、アングロドとその妻ラエルノアだった。

 アングロドは初老の見た目の男性で、年齢はすでに150を超えていた。

 その妻のラエルノアは、30歳ほどの見た目だが、すでに100歳を超えている。


 

「まあまあまあまあ・・・すっかり可愛らしい姿に、なってしまわれて・・・」



 ラエルノアは愛おしそうに、クマジロウの抱くその赤子を見つめた。



「事情はセイリュウ様より聞いております。我らエルフは、聖獣様と、我らが神を歓迎いたします」



 するとやってきた村のエルフ達は、クマジロウの前に傅いた。



「すまねえな・・・世話になる・・・」



 クマジロウはそんなエルフ全員に礼を述べた。



「ちょっ・・・ちょっとまって! もしかしてその赤ちゃん神様なの!?」



 エフィーと周囲の子供達は、それを聞いて驚愕する。



「あら、忘れたの? 村の子供では、貴女が一番親しかったじゃない?」



 ラエルノアは首をかしげながら、娘のエフィーにそう口にする。



「はい!? えぇ!?」


「え?」「誰?」



 それを聞いたエフィーと子供達は、より一層困惑を深めた。

 


「すみませぬ聖獣様。その方に関しては、子供達には伝えていないのです」


「いやいい・・・。子供達にはショックな話だったかもしれねえからな。でも年月を経た今なら、聞かせてもいいだろう」


「え!? 何々!? どういうこと!?」


「そこにおられるのは、この村をかつて救ってくださった、リンネ様だ」



 アングロドは、クマジロウの抱く赤子を指し示しながら、そう赤子の名を告げた。



「ええええええ!? 嘘!? なんでこんなに縮んじゃたの!?」



 真相を知ったエフィーは驚き、その経緯をクマジロウに尋ねた。



「嬢ちゃんは2年前に突如天に現れた、破壊の原初、邪神ルドラと戦い、刺し違えて肉体が吹き飛んじまったんだ。そんでもってよぅ・・・・肉体を赤子から再構築したんだぜ。だがいまだに感情だけが、戻らねえんだ・・・」



 あれからリンネは、希望の卵に魂と魔力を移し、再び赤子として誕生していた。

 だがいつまでたっても感情が希薄で、笑いもしなければ、泣きもしなかった。



「まあそれも年月を経て、魂が受けたダメージを回復すれば、元に戻るはずだ。皆も気長に見守っていてくれるとありがてえ・・・」



 クマジロウは赤子を見つめ、悲し気にそう口にした。



「もちろんでございます聖獣様。リンネ様ともども・・・いつまでもこの村にいていただければ、我らも嬉しい限りでございます」


「ハハハ! それはありがてえが・・・嬢ちゃんは冒険者だ。感情が戻ればたぶんまた・・・」


「えええ! リンネまた行っちゃうの!?」


「安心しろ・・・それも何年先の話になるかわからねえんだ・・・。少なくとも数年・・・下手したら百年以上はこのままだ・・・」



 クマジロウは空を見上げながら、悲し気にそう口にした。


 そしていつの日か、感情が戻ったあの少女と、笑いながら冒険をする日々に、思いをはせるのであった。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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