16:アリスフィアの出産
「おぎゃあああ!! おぎゃあああ!!」
19歳となったその日、アリスフィアは赤子を無事出産していた。
それは神との間の子と噂され、アリスフィアは皆にまるで聖母であるかのように云われていた。
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」
子供を受け止めた修道女が、その赤子を出産したアリスフィアにそう伝えた。
イーテルニル王国では、医療にかかわる修道女が、出産に立ち会うならわしなのだ。
「お姉さま・・・貴女の子ですよ・・・・」
アリスフィアはその時一筋の涙とともに、そう呟いていた。
なんとアリスフィアは自らに、リンネの・・・希望の卵を使っていたのだ。
こうして生まれたその赤子は、リンデルと名付けられた。
「しかしアリスフィアよ。未婚で王族が・・・しかも女王とよばれる立場のものが、出産を行うなど前代未聞だぞ?」
出産から3日目、出産時には顔をしわくちゃにして喜んでいた元国王ローレンスも、ようやく落ち着いたころに、そうぼやいていた。
アリスフィアは1年前に、戴冠式をへて国の頂点である、女王となっていたのだ。
「あら? この子は神の子ですよ? 神の子を出産できるなんて、とても嬉しいことではないですか?」
「まあ・・・確かにあの者は、神の1柱と言っても過言ではない人物ではありますが・・・」
そのアリスフィアの様子に、少し呆れながら、チャールズ宰相はそう口にした。
「だがそれを信じない貴族もいるのは事実だ。お前のカリスマ性を考えれば、お前の女王としての立場が、それぐらいでゆらぐとは思えないのも確かだがな」
「ほら~おじいちゃんでちゅよ~。またむちゅかし顔して、いやでちゅね~」
そんな難しい顔をする義父の前に、アリスフィアは抱きかかえる赤ん坊を、あやすように近付けていく。
「だあ! だあ!」
「お~うよちよち! リンデルはいい子でちゅね~」
するとそんな赤子の可愛らしさに、ついローレンスの表情も緩むのであった。
「恩人の子でもありますし・・・私も全力でサポートはいたしますが・・・・」
チャールズ宰相はその様子を見ながら、呆れたようにそう呟くのであった。
「アルスレット、マルスリーヌ。貴女達にはまた苦労をかけてしまうかもしれないけど、これからも助けてちょうだい!」
執務室に戻ったアリスフィアは、女王の右腕と称される、2人の腹心にそう頼み込む。
「女王を助けるのは、女王の騎士としては当然の務めですよ! このアルスレットめに、なんなりとお申し付けください!」
「それはリンデル王子のためでしょ? あの子はわたくしにとって恩人も同然だわ! ぜひサポートさせてください!」
現在アリスフィアが無事に女王を務めあげている裏には、この2人の活躍があったのだ。
ちなみにマルスリーヌは、一番上の王兄である、フレドリック・イーテ・イーテルニルとすでに婚姻済みである。
姉のアルスレットは、剣に入れあげるあまり、婚期が遅くなってしまってはいるが・・・
また2人と同じように腹心として仕えていたエマは、事情によりエテール領へと帰還していた。
そしてソレンヌ・イーテ・オーバンと獣人のスーは、今も赤薔薇騎士団を支える一員となっている。
アルフォンスは驚くべきことになんと・・・昨年あのゴドウィン宮廷魔導士の娘、リオノーラと婚姻を結んでいた。
それは彼が王国最高騎士団長となった出来事が関係しているのだが、その話はまた別の話である。
「びゅいいいいいい!!」
「リンデル! リンデル! 走ってはだめよ! 止まりなさい!」
王宮の廊下を走り回るリンデルを、叱りつけるアリスフィア女王がそこにはいた。
リンデルも3歳となり、顔立ちもしっかりしてきていた。
リンデルは魔力の多さを示す黒髪に、わんぱくそうな笑顔を浮かべた美男児に育っていた。
「あの子身体強化が発現していない? あのころの幼児が、あそこまで早く走れるものかしら?」
マルスリーヌがリンデルを見て、そう分析する。
魔力の多いリンデルは、その年ですでに身体強化に目覚め始めていたのだ。
「これは魔力量を確かめてみないといけないわね・・・」
だがリンデルの魔力を測定した結果、驚くべきことに、その年齢ですでに宮廷魔術師の平均魔力を、大きく凌駕していることがわかったのだ。
「この年齢でこの魔力の多さは危険ですよ・・・いつ魔法が使えるようになってもおかしくはない。早急な教育が必要ですね・・・」
アルスレットがその測定結果にそう意見を出す。
「アルフォンス最高騎士団長に剣を習わせてはどうかしら?」
マルスリーヌがそう提案する。
「まだリンデルは3歳の幼児よ? それは早いんじゃないかしら?」
だがアリスフィアはその提案には難色を示す。
「でもあれじゃあ乱暴な子になった時に大変よ? アルフォンス最高騎士団長に、紳士的な部分だけでも教育してもらわないと・・・」
しかしそんな彼女らをよそに、リンデルを取り押さえるのは、騎士であってもすでに難しいとさえ言われていた。
「あの子のお父様が健在ならね・・・」
「そう? 逆にあの子を甘やかすんじゃないかしら?」
そう2人はお互いに言葉を交わしつつ、お菓子を周囲に振舞う、あの幼女の笑顔を思い浮かべる。
「こら!! リンデル!! 大人しくしろ!!」
アルスレットがひょいとリンデルを摘まみ上げる。
どうやら無事にリンデルは確保できたようだ。
「きゃははは! アル~! アル~!」
「私はアルスレットだ!」
だが摘まみ上げられたリンデルは、それでも笑顔で、笑い転げるのだ。
そんなリンデルにふと、姉の面影を重ね、少し寂しくなるアリスフィア女王だった。
第十一章 世界滅亡編 完。
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