エピローグ
「……墓まで作ってくれて、感謝する」
墨石城を遠く臨む丘の上、延武は静かに拱手し、趙謙に深く頭を下げた。
僧衣から覗く包帯には痛々しく血が滲んでいたが、その表情には憑き物が落ちたような、凪の静謐さが漂っている。
趙謙は土を均したばかりの手を払い、ただ静かに、名もなき石を積み上げただけの墓を見つめていた。
趙謙は土を均したばかりの手を払い、ただ静かに彼の墓を見つめていた。
「感謝する必要はないさ。……友を葬るのは、生き残った者の義務だからな」
趙謙は短く応えると、作法など知らぬと言わんばかりの無骨な所作で、長く、深い祈りを捧げた。
その背中を見つめていた延武も、重い身体を支えるようにして隣に跪き、亡き弟弟子へと静かな経を重ねた。
しばらくの沈黙。風が草原をなぞる音だけが響く中、趙謙がポツリと問いかけた。
「……胤昭、いや法名は胤禅だったか……。あいつは、少龍寺ではどんな奴だったんだ?」
共に過ごしたのは、ほんの数日。趙謙が知る彼は、僧侶に似つかわしくない軽口を叩き、復讐の修羅へと堕ちていく背中ばかりだった。
延武は遠い空を仰ぐように目を細め、懐かしむような声で語り出した。
「……よく口が回る奴だった。だが、人一倍、努力する奴でもあった」
延武は少しだけ口角を上げ、胤昭がいた頃の、明るかった日常の光景を思い出す。
「不器用な優しさで、いつも小宛を助けていた。……少龍寺の弟子である私がこんなことを言っていいのかは分からんが、小宛もまた、胤禅のことを……」
趙謙は、自分が最期に見た、晴れ晴れとした胤昭の顔を思い出していた。
「……運命ってのは、読めないものだな」
懐から数珠を取り出し、墓標の根元にそっと置いた。
「その通り。だからこそ、我らは修行をするのだ」
頭上には、相変わらずムカつくほどの晴天が広がっている。
「……そういうもんか?」
だが、その空の下を歩き出した二人の足取りは、先ほどまでよりも、ほんの少しだけ軽やかであった。
「俺は仏を信じてないからな」




