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第14話 おっさん、王都で飲む(なんか聞き覚えのある声が、うしろからするんだが!?)

 ◇リンナ副隊長視点◇



「まあ、連日のお騒がせですね。聖女セシリアの聖騎士は」


 そう言って微笑むのは、学園聖騎士隊のトップ、エリクラス隊長。

 あたしの上司であり、憧れの存在。


 輝くプラチナブロンドの髪を揺らして微笑むさまは、王族にもひけをとらないほどの気品を感じる。

 それでいて、実力は本家聖騎士団の隊長クラスにも匹敵する。


 本当にあたしには遠い人だな……


「……? リンナ、どうしました?」


「あ……! いえ、なんでもありません……」


 しまった……報告中だが、見惚れてしまった。

 副隊長になったというのに、この人の前ではいつまでも新人気分になってしまう。入団したての頃のように。


 あたしは両手にグッと力を入れて、気合を入れなおした。


「それにしても学園長の【結界】が破損するなんて……リンナはボクレンの力だと思いますか?」


「わかりません……ですが、ただのおっさんではなさそうです」


「ふふっ、そうですか」

「た、隊長。な、なぜ嬉しそうなんですか?」


 しまった……聞くつもりじゃなかったのに、つい口に出てしまった。

 だって、こんな嬉しそうな隊長は見たことがないから。


 いや、そういえば昨日もこんな表情を見たな。

 あいつが来てからだ。


「だって、有能な人材が向こうから来てくれたのかもしれないんですから。こんな嬉しい事はないでしょう」


「うっ……ですが有能と判断するのはまだ早いかと」


「もちろん。焦りは禁物です。ですが、例の事件も解決していません。学園聖騎士団としても、少しでも良い人材には期待をしてしまいます」


 例の事件……


「聖女失踪の件ですか? たしか、魔物討伐の帰りに護衛聖騎士ごと消息を絶ったとか」

「ええ……王国聖騎士団本部も動いていますが、いまだ手がかりはゼロです」

「魔物の仕業でしょうか?」

「何とも言えないですね。魔物と争った形跡は見つかったらしいですが、遺体や所持品がまったく見つからないのです」


 聖女一行ともなれば、そこそこの大所帯になるはずだ。

 なんの痕跡もなくすべて消えるものだろうか。


「いまはまだ学園生に被害は出ていませんが、油断はできません。歴戦の聖女一行をどうにかしてしまう存在が、この国にいると思わざるを得ない。ですから、今は1人でも有能な聖騎士が欲しいところなんです」


 エリクラス隊長の言う事はわかる。

 だからといって、あたしはあのおっさんをすぐに信用する気にはなれない。



 もっと用心深く観察しないと―――



 そんなわたしの肩にそっと手を置いた隊長。


「あなただからボクレンを任せているのですよ、リンナ。よろしくお願いしますね」

「……はい」


 あたしは隊長の部屋を出て、長い廊下をゆっくりと歩く。


 ……あのおっさんが有能……あんな隊長の顔……。


 あ~~~クソっ! なんとも言えない気分だな。なんかスカッとしたい。



 こういう時は…………久々に街にでるか。




 ◇◇◇




 ◇ボクレン視点◇



「ふぃ~~おわったおわった~お疲れ俺ぇ~」


 グッと伸びをして、息を吐く。今日一日の勤務は終了した。

 護衛と言っても、聖女に四六時中べっとりというわけではない。

 セシリアたちは授業が終わったあとは、聖女寮で夕食を取り風呂に入り予習復習して就寝みたいなかんじらしい。その間の護衛はない。というかおっさんが、聖女の入浴とかに同行できるわけがない。


 つまり夜は基本自由時間だ。


 てことで―――


 王都の庶民街に来てみた。


「うっひょ~~飲み屋がいっぱいあるぞ~~♪」


 死んだオヤジは大酒のみだった。俺も成人してからは、随分と晩酌に付き合わされたもんだ。

 そんな事情もあってか、俺自身も酒はかなり好きである。


 まあ給金ものちに入ってくることだしな。仕事終わりの一杯ぐらい、バチは当たらんだろ。


 さて、店選びなんだが。


 う~~ん。多すぎてわからん。


 さすが王都の城下町だ。


 大通りは少しお高い感じの店が多い。まあたまにはいいのかもだが、おっさん好みじゃないし、財布にも優しくない。

 少し中にはいった小さな通りに足を運んでみる。


「おおぉ……」


 左右にびっしりと、こじんまりした店が軒を連ねているではないか。


 これは開拓しがいのある場所だなぁ。

 俺はとりあえず目に留まった店に入ってみた。黒豚亭か。


「いらっしゃ~い。好きな場所にすわってね~」


 中から若い女の子が、エプロン揺らして元気な声を聞かせてくれた。


 適当な席に座り、壁に貼られている木札のメニューをザッとみる。

 いいなこの感じ。辺境の町ミリスの飲み屋と似ている。


「お、セットがあるのか」

「ありますよ~。エールとおつまみ2品で500ゴルドで~す」


 これは安い。表通りならエールのみでも500ゴルドを超えていた。

 いやぁ~ここ当たりかもしれん。


 さ~~て。おつまみ2品を何にするか。

 小ぶりな店にも関わらず品目が多い。俺、こういう店すき!

 いろいろ悩んだ結果、店名にもなっている黒豚串と、芽キャベツガーリック炒めをチョイスした。


「は~~い。エールセットおまたせで~す♪」


 きたぁ……


 目の前に運ばれてきたエールの木製ジョッキを掴んで、ぐっと喉に流し込む。

 おっさんの口の端が自然と緩んだ。


「ぷはぁ……ぁああ」


 きたきたきたぁあ!


 ああ~~~からだに染み渡るぅ。


 これだよこれ。最高かよ。


 背もたれに寄りかかり、つまみを少し口に入れてみる。

 うまぁあ……こりゃマジで当たりだな。


 冷たい泡にうまいつまみ。

 おっさんが至福の時を過ごしていると、背後でキッとした声が耳に入ってきた。


「―――店主! エール追加だ!」


 んん? なんか聞いたことある声……女性だな。


 そういえば、同僚の聖騎士たちは飲みに行ったりするのだろうか。

 ほぼ全員が若い女性騎士だが、飲めない年齢でもなさそうだし。


 まあ、おっさんは1人でチビチビいくのが好きだけどね。


「―――店主! エール追加だ!」


 また背後から同じ声……いや、どっかで聞き覚えがあるんだが。

 にしてもペースが早いな。まあガンガン飲みたいときもあるだろうし、人の勝手だが。


「―――店主! エール追加だ!」


「お、おい……そんなに飲みまくって大丈夫かって……んん?」


 振り返ると、そこには両手でジョッキを抱える女騎士。


「―――り、リンナ副隊長!?」


「っ……貴様かぁ!」



 うわぁ、上司いたよ……



 若干、気まずい空気が流れる。

 なんとなく次の言葉がでない感になっていると、リンナは店員さんに注文をした。


「黒豚串と芽キャベツをくれ」

「は~~い♪」


 ちょっとまて!


「なんだ貴様? ジロジロと気持ちの悪い」


「いや……単品って……」


 マジかよぉ……セットにできるのに、全部単品で頼んでやがる。


 どんだけお貴族様食いなんだよぉお……


「くだらん。単品の方が一品の量も多いだろう」

「いや、そうやけど。そこはちょびちょびでしょうが大将」

「だれが大将だ! まったく……おまえというやつが良くわからん」


 すげぇな。これが副隊長のサイフ事情か。

 真の聖騎士とはこれほどまでなのか……。

 おっさんなんかビビって、ぜったいセットにするけどな。


「は~~い。お待たせしました~。お知り合いなんですねぇ~~良ければお二人同席してもらえませんか~♪」


「な……! こんなおっさんとだと!!」

「ああ、かまわんよ。よっこらせっと」


 俺は強引にリンナの座るテーブルへ移動した。

 こじんまりした店だが、客が埋まり始めたからだ。ここは協力してあげるべきだからな。


「貴様ぁ……今日だけだからな」


「ありがとうございま~す。ふふ、お二人カップルみたいですね♪」


 ……とんでもない爆弾を投下して去って行く店員さん。


 そんな爆弾発言に、周りの客もニヤニヤしとる。


「こりゃ、いいつまみにされちまったな」

「ちっ……貴様はどこにいても目立つ」


「なに言ってんだ。半分は茶化してるんだろうが、半分はリンナを見てるんだぞ」

「はあ? ボクレン、貴様何を言って……」


 おいおい、まさかの自覚なしか。しゃ~ないおっさんが教えてやる。


「こんな美人さんが飲んでりゃ、誰だってチラ見するだろ」


 リンナははっきりいって美人だ。

 言葉遣いこそ荒いが、それも常に気を張っているからだろう。

 綺麗な黒髪に、引き締まった身体。少し釣り目だがそこがいい。


「う、うるさい……おっさんに褒めれても嬉しくもない」

「ははっ、そりゃそうだ。まあ今日は楽に飲もう。無礼講だ」

「き、貴様が言うな」


 リンナは誤魔化すようにジョッキをあおった。わずかに頬が赤い。剣一筋に生きてきたのか彼女の経歴は知らないが、なんかかわいいな。


「さて……おっさんはほどほどにしとかんとな。明日はセシリアと朝練だし」


「ふん、彼女のことか」


「ああ、少しやってみたいことがあってな」


 リンナがジョキを置いて、俺に視線を向けた。


「セシリアはいい子だ。素直で努力家だし、根性もある。あたし好みだ。真面目すぎるところも含めてな」


 生真面目なのはリンナも同じくなんだが。まあ、今は言う必要はないか。


「貴様に期待なんかしちゃいないが……それでも。彼女のことをよろしく頼む……」


「もちろんだ」


 やはりこの子は責任感が強い。

 あたりはきついが、それは彼女の性格や、副隊長としての立ち振る舞いもあるからだなんだろう。

 空回りだろうが、正しかろうが、思ったことを存分にすればいい。


 落ち着くのは、おっさんみたいになってからだ。



「それから……」


 リンナの声のトーンが下がった。


「……(一部の聖女が消息不明になっている。原因はまだわからん)」


 彼女は真剣な眼差しで言葉を紡ぐ。


「気合入れて仕事しろよ。なにかあれば聖女の盾となり障害を排除する。それがあたしたちの役目だからな」


「……ああ、わかった」


 そんなことが起こっていたのか。

 セシリアも狙われる対象になり得るんだよな。気さくでおっさんに優しいから、つい忘れがちになってしまうが彼女も聖女だ。


「仕事はきっちりこなす。任せてくれ、リンナ副隊長」


 すると再びジョッキを手にしたリンナ。


「ふん、ならいい。かたい話はここまでだ。相手が貴様というのは気にくわんが―――

 ――――――飲むぞぉおお!」


 リンナ副隊長の怒涛のエール追加が再開された……



 そして1時間後―――



「ボクレン! おまえなんかうたぇ!」

「ええぇ、たのむから静かに飲もうぜ……」

「んだょ、使えねぇおっさんだなぁ!」


 日頃ため込んだものを発散するのはいいことだ。

 たまにはそういう時間も必要だろう。とくにリンナのような子は。


 だが……


「―――なら、ぬげぇ!」


 ヤバい、めちゃくちゃ絡むやんこの人。

 絡み酒かよ……


「おっさん脱いだら捕まるから。さあ、そろそろ帰るぞ」


 リンナのジョッキを取り上げて、会計をしようと席を立とうとしていたら―――


「5軒めはぁ~~ここにするぅ~♪」


 んん?


 なんかまた聞き覚えのある声がするんだが。


 嫌な予感しかしない。


「あああぁ~~けっかいこわしたおっさんラァア~~♪」


 うぉ……マシーカ先生!?


「だ、大丈夫か。てか聖女も酒飲むんだな……」


「たりめぇでしょ~聖女らって飲むわよぉおおお~~てかおっさん、あにチビチビやってんのぉ~~エール10杯ついかぁアア~~~♪♪♪」


 こっちは酒乱かよ……



 そして1時間後―――



 リンナと聖女マシーカには酒と言って水を飲ませまくって、ようやく二人とも落ち着いた。


 はぁ……なんかいろいろありすぎたな。


 けど、まあこんなんもたまにはありか。


「じゃあ~~ボクレンさ~ん、また飲みましょうねぇ~~~」

「チッ……ま、まあ。たまには飲んでやってもいい。たまにはだぞ!」


 そういって去って行く2人。



 おっさん王都デビュー初日に、飲み仲間(?)ができたようだ。




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